マガジンのカバー画像

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』

15
BOY meets MUSIC ストーリーズ
運営しているクリエイター

#バンド

孤独な君のレジスタンス。

孤独な君のレジスタンス。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -9

バンドは団体戦だ。
クラスの片隅でひとり、どんなに鬱屈として世間を呪ってみたところで、その一瞬で世界を一変させる1,2,3,4の奇跡の4カウントは、教室の窓の外からも気になるあの子の寝言からもまるで聞こえてきやしない。

どんなにコミュニケート不得手だろうが、仲間を集めないことには音楽は鳴り始まらないのだ。これはゲームではない。

もっとみる
剣道、アドラーそしてドラマー。

剣道、アドラーそしてドラマー。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -8

えっ、そこは普通ベースだろ…!

そう思いっきり突っ込みたいところだったが、ここでヒサミツの気分を害してしまっては元も子もない。ようやくこの道に引きずり込んだ貴重なメンバー候補だ。パートはともかく今は仲間を集めるのが先決なのは間違いない。

そうして僕は、メンバー探しに奔走することになった。
といっても学年にたった4クラスしかない小

もっとみる
心の中から現れたものは常に正しい。

心の中から現れたものは常に正しい。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -7
昨夜の日曜洋画劇場で『ベスト・キッド』を観たおかげで、興奮して寝付けずに絵に描いたような寝坊を喫した僕は、遅刻ギリギリで教室に飛び込んだ。
真っ白な開襟シャツはすでに汗でぐっしょりだ。

しかし今や気分はKARATEの達人、僕に案ずることなど何もない。
これしきの事は「心頭滅却すれば火もまた涼し」、である。

(このオープニング・タイ

もっとみる
なんだこの感じ、この感覚。

なんだこの感じ、この感覚。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -6

「何だよ、見せたいのって。」

ヒサミツが訝しげな顔をして、僕の部屋の本棚を手持ちぶさたに品定めをしている。

遙か古(いにしえ)から、初めて訪れた部屋において繰り返し行われてきたであろう、ささやかな通過儀礼である。

しかし、僕の一番の愛蔵書である宮沢賢治大全集には微塵たりと興味を惹かれなかったようであり、遺憾ながら彼は早々にテレ

もっとみる
その者、緑の衣をまといて金色の野に降り立つべし。

その者、緑の衣をまといて金色の野に降り立つべし。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -3 (Another Story)
時を少し戻そう。

その日は朝から憂鬱だった。
形ばかり在籍している陸上部で、初めて大きな地区の競技大会に出場することになっていたのだ。もちろん誰もやる気が無いうえに、吹き溜まりのような寄せ集め部員にとって、学校を出ての初遠征なんて抗えない遠足みたいなものであった。

そもそも、顧問の担任(20代初赴任

もっとみる
この気持ちに、名前はまだ無い。

この気持ちに、名前はまだ無い。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 小学生編 -6

12歳、また夏がやってきた。

望まずとも課せられる呪いみたいな夏休みの宿題。

今となっては『Back to the Future』のデロリアンの設計図を提出できる訳もなく、ひとり粛々と日々タフにやり過ごしていくしかなかった。

少し時を戻そう。

その年の4月。
新学期、僕の学校では2年ごとのクラス替えがあり、小さな町ではあっ

もっとみる