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短編小説

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2022年3月の記事一覧

短編【ドリームフォト】小説

短編【ドリームフォト】小説

#1

私は悪夢で目が覚めた。恐ろしい夢だった。リアル過ぎて、しばらくは放心状態だった。ここ二、三ヶ月はおさまっていたのに。生理がだいぶ遅れていたので嫌な予感はしていた。

夢の中で私は風呂場にいた。そこには何故か全裸の女性がいた。ロープで身体をきつく縛られて横たわり、口元はタオルで塞がれていた。声が出せないその女性は、恐怖で両目をカッと見開いていた。その両目が、助けてと叫んでいた。

私の足元に

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短編【ストレス発散秘密倶楽部】小説

短編【ストレス発散秘密倶楽部】小説

私は大手デパートのクレーム処理課に勤めて15年になる。毎日毎日さまざまなお客様のクレームを私は対処している。

クレームと言っても会社をより良くする為の材料が隠れているので、おざなりには出来ない。クレーマーとは私にとって会社を、いや、私自身を成長させてくれる有難い存在なのだ。だが常識では考えられないクレームを言いつけてくるお客様もいる。

この前も大福の中に金属が入っていたというクレームがあったが

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短編【命のホットコール】小説

短編【命のホットコール】小説

「はい、こちら『命のホットコール』山田みゆきです。お名前よろしいですか?」
「あの…太田一郎といいます」
「太田さんですね?どちらからお掛けになってます?」
「自宅からです」
「今、お一人ですか?」
「はい。・・・あ、いえ。今、女房は寝てまして」
「そうですか。夜中ですものね。奥さんにも言えない悩みなんですか?」
「はい。あの、その女房が悩みの種なんです」
「奥さんが?」
「女房が酷い浪費家で私に

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短編【理性の扉をこじ開けて】小説

人間と云うものは、キッカケが有れば如何ようにも変われる。逆に言えば、キッカケが無ければ変われない。変わりたいと思っている人間はそのキッカケを待ち望んでいるのだ。私の妻の様に。

妻を四文字熟語で表すとしたら『質素倹約』または『簡素清貧』。地味で慎ましく、身を飾らずに貧しくても清らか。私は未だかつて彼女の口からモノが欲しいと聞いたことが無い。

そんな妻に、お昼に放送されている『昼ドキッ!情報局』と

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短編【僕と一緒に】小説

短編【僕と一緒に】小説

人生の物語を書いている者がいて、その者を神と呼ぶのなら、私は私の人生を書いている神を呪う。なぜ、こんな人生を描くのか。面白いからという理由で人を簡単に不幸にする神を私は呪う。人を簡単に殺す神を呪う。

全身を強く打った私はもうすぐ死ぬ。名も知らない男と一緒に。

私の何が悪いのか。まったくもって分からない。ただ私は、あの人を好きになっただけ。私の純愛に不倫と名付けて、あの人の妻と名乗る女が私を責め

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短編【OH!予想外!】小説

短編【OH!予想外!】小説

久々の休み!十連勤明けの!ひっさびさの休み!年始早々、去年の年末にやり残した業務を片付けて、ようやく一息着いた!

只今朝の7時。せっかくの休みなんだから昼過ぎまで寝るつもりだったけど、早起きの習慣はそう簡単には治らないってワケね。OK、OK!さっさと起きて今日一日を満喫するぞ!

ベットから飛び起きてカーテンをシャ!っと開ける!雲一つ無い真っ青な空!朝日が雪崩込んできて部屋の中をスパーーン!と明

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短編【天使ちゃん】小説

短編【天使ちゃん】小説

天使は薄暗い押し入れの角を見詰めていた。両膝を抱えてじっと角を見詰めていると自分の身体が優しい闇の中に溶けてゆく感じがする。

天使はそっと瞳を閉じる。闇がいっそう深くなる。そして、あの子が来るのを待つ。

消えてしまいたいくらい辛いときに、あの子はやってくる。
大丈夫、大丈夫、ボクがいるから大丈夫、とあの子はやってくる。

今日も来てくれる?お願い早く来てお願い。そうじゃないと、あたしは自分で自

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短編【混ぜるな危険】小説

短編【混ぜるな危険】小説

カッちゃんには内緒だけど私はピルを飲んでいる。だって、カッちゃんは子供が大好きなんだもん。

カッちゃんと結婚する前に私は姉のアパートにカッちゃんを連れて行った事がある。

その時、姉は赤ちゃんを生んだばかりで、その生まれたての姪っ子を見に行くついでにカッちゃんも連れていった。カッちゃんは赤ちゃんにメロメロでずっと赤ちゃんと遊んでいた。帰りの車の中でもずっと赤ちゃんの話をしていた。

きっと私たち

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短編【臨終タクシー】小説

短編【臨終タクシー】小説

深夜一時すぎ。
突然の電話の音に私は肝を冷やした
こんな時間から電話なんて最悪な事態が頭をよぎる。
私は急いで電話を取った。

「はい、大野ですが」
「大野さんですか、中央病院ですが、急いで来て下さい。奥さんが」

私は、電話を最後まで聞かずに家を飛び出した。
いつ呼び出されてもいいように、ここ一週間は余所行き格好で寝ていた。
私の妻は末期の癌で、いつ死んでもおかしくはない状態だった。
五階の部屋

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 短編【味覚障害】小説

 短編【味覚障害】小説

「ちょっと、痩せたんじゃない?」

佐和子は義理の弟、義光の少しやつれた顔を見て言った。
体調を崩したという連絡があり、義理の姉である佐和子が義光のアパートまで様子を見にきたのだ。
佐和子がわざわざ義光の様子を見に行ったのは、義光が独り者であるという理由もあるが、もう一つ、ちょっとした不安があったからだ。

その不安とは義光がこのアパートに十日前に引っ越しをしてきたという事。

とにかく家賃の安い

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短編【読まないでね】小説

短編【読まないでね】小説

お母さんに手紙を書くなんて初めての事ですね。本当はメールを送ろうかと思ったんだけど、何だかメールよりも手紙に書きたい気持ちだったので、手紙にしました。お母さんが、直腸癌にならなければ、手紙を書く気には成らなかったと思います。なかなか綺麗に書けなかったので、これで三枚目です。お母さん、今まで本当に有難うございました。お母さんが癌になったことを先生から聞かされた時の事を今でも覚えています。本当にガ~ン

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短編【神の僕となりたれば】小説

短編【神の僕となりたれば】小説

山岸誠治が教誨師になって三年が過ぎた。
これまで八人の死刑囚と対話し、そのうち三人の死刑囚を棺前教誨で見送った。
教誨とは『教えさとすこと』である。
罪を犯した者と語らい、彼ら彼女らの悲痛をうけ入れ教え諭す。

しかし山岸誠治は、死刑囚たちの話を聴いていると常に自分が諭される気持ちになった。
殺人という罪を犯してしまった者たちの半生は、山岸誠治にとってはどれも壮絶だった。

あらがえない運命に放り

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短編【マッチング】小説

短編【マッチング】小説

運転免許証、パスポート、健康保険証のいずれかの身分証の提出があるのか。
『インターネット異性紹介事業届』はきちんと為されているのか。
強制退会や通報などの防犯対策はあるのか。

それらを入念にチェックして浅河尾紅葉はマッチングアプリ『アムルーズ』の登録サイトを開いた。

「変な人いない?大丈夫?怖くない?」
「大丈夫、大丈夫。私が変だから」
「それはそうだけど」

あなたは変だけど私は変じゃないか

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短編【らんちう】小説

短編【らんちう】小説

キキョウの花弁を思わせる淡い蒼色の縁取りをした直径23センチメートルのガラス製の金魚鉢の中を一匹のらんちゅうが泳いでいる。

赤みの強いオレンジ色と光沢のある滑らかな白色の二つの配色が鮮やかなそのらんちゅうは金魚鉢の中を所狭しと遊泳している。

静止しているのかと思わせるようにユックリと鰭を動かしている。
かと思えば突然何者かから逃げる様に素早く身を移す。

金魚鉢の有限の世界の縦横を無尽に潜水し

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