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卒!ノリと勢いで生き抜いてきた、その場しのぎのプロジェクトマネジメント

初めて任されたプロジェクトを終えたとき、素直に喜べない自分がいました。

「もっと上手な進め方があったはず…」

自身の経験や知識が乏しい引け目から、関係者の顔色を伺ってしまったり、発言力が強い人に圧倒されるがまま状況の収拾がつかなくなったり。中途半端な立ち回りで、自身の思い描くゴールイメージに対して妥協せざるを得ない結果となってしまった。そんな経験があります。

初めてプロジェクトを任された多くの人が、「果たして自分に上手く進められるだろうか」「期待された成果を、期日通りに進められるだろうか」といった不安を抱くと思います。

プロジェクトがスタートしてしまうと、刻一刻と期日に向けて時間は進んでいきます。一人で進めるような日々の業務タスクとは異なり、時には初めて顔を合わせるようなメンバーと一緒に、手探り状態で「コト」を進めていかなければいけません。

そして、何とか終わって安堵する。喜びや達成感があるかもしれませんが振り返ってみると、「ノリと勢い」といったその場しのぎでプロジェクトを進めてしまっていた ―― そんな経験、ありませんか?

このNOTEではそんな「プロジェクトマネージャー1年目」の方たちや、少しでも同じような経験をされたことがある方々にとってのヒントとなればと思いまとめさせていただきました。

是非、参考としていただけると幸いです。

◯ 学校では「板挟み」を教えてくれない

プロジェクトマネジメントには現場で使える学術的な知識体系があまり無いと感じます。もしかすると一般的には存在するのかもしれませんが、一部の特別な人しか会得しておらず、学校では教えてくれません。

社会に出ると様々なシーンで「板挟み」が生じます。

2つの対立した意見や立場の間で翻弄され、「どちらの意見も理解できて、はっきり結論を出せない」という場面を経験することってありますよね。

プロジェクトマネジメントにおいてはこの、「どっちの主張も、それぞれの立場を考えるとわかるんだけどね…」といった状況に対して、何かしらの判断をして(時には頭を下げたり、嫌われ役になりながら)進めていかなければいけない瞬間が必ずあります。

このような柔軟さが求められる中で、共通概念が抽象的で、スキルも属人化してしまいがち。上司も先輩もわざわざ「プロジェクトマネジメントとは?」と体系的に教えてくれるわけではなく、どこかその場しのぎの感覚でこなしている気がしませんか?

◯ プロジェクトマネジメントは何故難しいのか?

それは何故か、一言でいえば「暗黙知の領域」が広いからだと思います。

個人の経験則や勘に基づくノウハウ、仕事を重ねる中で身につけたスキルといった、人それぞれの中にある言語化されていない主観的なナレッジが形式知化されず、皆が最初は「その場のノリでなんとかしなければいけない状態」になってしまっている気がします。

◯ プロジェクトマネージャーの役割とは?

そもそも、プロジェクトマネージャーとはどういった役割なのでしょうか?

"プロジェクト" という言葉を辞書で調べると、「特定の目的を達成するために、期限やリソース(人材、予算、設備など)が明確に定められた一時的な活動のこと」と定義されています。日常業務とは異なり、特定の成果物やゴールを目指して計画的に実施されるものを指すことが多いようです。

・一時的な活動で、スタートとゴールが決まっている
・日常業務では得られない、特別な成果を期待される

日常業務とは異なるユニークな成果を得るための活動を、あらかじめ期限が定められた限定的された時間軸の中で、いろいろな立場や専門的な知識を持った人たちに協力してもらいながら、限られたリソース(ヒト・カネ・モノ)を活用し、計画的に進めていく。

ここではプロジェクトの特徴を、以下の3つにまとめてみました。

◯ 全く同じプロジェクトは存在しない

プロジェクトマネジメントの難しさをさらに増すのが、同じメンバー、同じ目標、同じ期間で進めるプロジェクトが存在しないことです。言い換えれば、毎回チームアップと解散を繰り返しながら、新しいアイディアと視点のアップデートが求められます。

成功体験自体の再現性も低いため、ただ「うまくいった方法」をなぞるだけでは不十分です。

これまで別のプロジェクトを最初から最後まで「やり切った」という経験がなかったり、長く勤めること生まれる社内関係者との信頼関係がベースにないと、どこから手をつければいいのかわからず、相談できる伝手も無く失敗するリスクは高くなります。

この「人間関係」のような要素は、教科書に載っている理論では教えられません。だからこそ、「誰が・誰と」担当するかでプロジェクトの進行スピードや進め方が変わることがあります。

プロジェクトマネージャーは「局地的」ではなく「横断的」に、様々な人たちを巻き込んで、時には自身が仲介しながらプロジェクト全体のコミュニケーション品質を向上させていく必要があります。

◯ 若手にとっては「無理ゲー」?

若手にとっては、現場でのプロジェクトマネジメントが「無理ゲー」に感じられるのも無理はありません。上司や先輩の成功体験は、そのような個々の経験や人間関係に依存しているため、簡単に共有できるものではないです。

結局のところ、プロジェクトマネジメントは一つの「感覚」をつかむことであり、実践を通じて身につける以外にない、というのが現実だと思います。

――― と言ってしまうと身も蓋もないので、この「暗黙知」を「形式知」に変えられるように、ポイントを整理していきたいと思います。

まず捉えておきたいのが、プロジェクトには必ず2つの基本要素があるということです。

目標:達成すべき基準(Key Performance Indicator / KPI)
目的:到達したい最終ゴール(Key Goal Indicator / KGI)

まず、この2つの基本要素をスタート地点としていきましょう。

1つ目の要素「目標」

プロジェクトが成功したかどうかを判断するためには、目標設定が欠かせません。目標が明確でないと、チーム全体が「どこへ向かえばいいのか」が分からなくなり、足並みを揃えるのが難しくなります。

目標:達成すべき基準(Key Performance Indicator / KPI)

KPIはできるだけ絞り込み、あまり数多く設定しないほうが良いです。指標が多くなりすぎると方向性が定まらず、何も達成できずに終わるというのも経験から感じます。

KPIの時間軸もリアルであるべきです。5年後、10年後の目標は見えづらく、すぐに達成感が得られません。また、年単位で少しずつ変化する数値目標では、達成できたとしても誤差の範囲と判断されかねません。スタート時点ではダイナミックな数値目標を掲げるべきです。

KPIはシンプルかつインパクトのあるものにすることをオススメします。これらを設定することで、プロジェクトの方向性が見えやすくなります。

過度に野心的でストレッチをかけた目標設定は、メンバーに負荷をかけプロジェクトタイムラインにも大きな支障を与えると言いますが、大きく組織を変革させるには中途半端な目標設定ではやったことの良し悪しが判断しづらいのも事実です。

自組織の売上を10%伸ばそうというなら、2倍を目指すくらいの発射角度でなければ捉えづらいです。「描いた目標以上のことは達成できない」ので、なるべく高い目標を持つべきです。

あえて目指す高みを描いてこそメンバーの意識も変わり、プロジェクトは飛躍的に進化すると思います。

ただ、目標の設定にもいくつか重要なポイントがあります。それが「QCD」── Quality(品質)Cost(コスト)Delivery(納期) です。

◯ 目標設定の3つの要素

QualityCostDeliveryは、プロジェクトの進捗を測る3つの基準であり、成功の鍵です。

この3つの要素はトレードオフの関係にあることが多く、例えば「コスト」を抑えれば「品質」が落ちる可能性があり、「納期」を急げば「品質」が犠牲になることがあります。バランスを取りながら、どこに優先順位を置くのかが重要です。

企画部門における「品質」とは、施策が課題解決にどれだけ有効であるか。言い換えると、「問題の本質」を見極め、最も効果的な打ち手が提案されているかどうかです。

◯ 勇気を持ってやらないことを決める

また、プロジェクト管理において重要なスキルの一つが、スコープ・マネジメントです。簡単に言えば、プロジェクトで何をするか、何をしないかを事前に明確に決めておくことです。

プロジェクトの途中、または最悪の場合、終盤で「この対象も含めるべきだった」「あの人たちはどうするの?」なんて問題が発生すると、プロジェクトはスムーズに進まなくなってしまいます。

やりたいことが山ほどあっても、すべてに手をつけるのは現実的ではありません。だからこそ「やらないこと」もはじめに合意しておくことが大事です。そして、プロジェクトの初期段階で経営陣との合意形成をしっかり行うことで、後からの手戻りを防げます。

初期合意形成が甘く、期待値に対しての「品質」が下がれば、その後のリカバリーで「コスト」も「納期」も圧迫することになりかねません。

暗黙知やスキルは属人化しやすいものですが、QCDの原則に沿って進めることで、メンバー間での共通言語ができるので、同じ目標を追いやすくなります。

2つ目の要素「目的」

◯ 自由意志との戦い

もう1つ、プロジェクトマネジメントの難しいところは、ステークホルダーが「自由意志」で動くような錯覚に陥ることです。

人間は機械ではないので、役割を割り当てただけでは期待通りに動いてくれません。とくに、自分がその人の上司でも評価者でもない場合、プロジェクトマネージャーができるのはあくまで「お願い」までです。

どんなに重要な役割でも、相手の協力意欲が薄ければなかなか進みませんし、加えて専門家が相手だと、どうしても「頭が上がらない」こともあります。

情報の非対称性の壁(情報が不均衡で、一方が他方よりも情報を持っている情報格差の状態)があり、イニシアティブを握られやすく、そうなるとプロジェクトマネージャーの立場としては非常にやりづらいです。

ある程度の前提知識はもっておくべきですが、過度に意識しすぎて牽制してしまうと関係値も悪くなるので難しいところです。

互いの信頼関係を構築するためにはまずは相手を信頼することと、プロジェクトの意義をプロジェクトマネージャーが一番に理解して伝播していけるかが大事になります。

だからこそ「役割の取り決め」と「責任範囲の合意形成」が重要になります。関係者が一堂に集まってキックオフをしても、次のアクションが曖昧だと「誰も何もしない」という事態が簡単に起こります。ここを徹底するだけでも、プロジェクト進行はぐっとスムーズになるはずです。

ただ、ステークホルダー全員がプロジェクトに好影響を与えるとは限らないのが現実です。たとえば、組織の権力者が「ここはこうしてくれ」と一声かけた場合、今までの方針をひっくり返さざるを得なくなることもあります。

誰が関わるかによって、プロジェクトの進行は大きく変わるため、「どのように協力を得るか」がプロジェクトの成否に大きく影響します。

◯ レンガ積みの話から学ぶ共感の力

有名な話で「レンガ積み職人」の例があります。同じレンガ積みの仕事でも、「ただレンガを積んでいる」と思うのか、「世の人々が幸せになるために、大聖堂を作っている」と感じるのかでモチベーションが全く異なる、というものです。

ステークホルダーに対して「このプロジェクトが誰のために何のために存在するのか」という意義をしっかり伝えることができれば、より協力してもらいやすくなります。

共感を得られれば、「貢献したい」という気持ちが生まれ、責任感も芽生えやすくなります。人は理由(=WHY)がなければ行動を起こす動機に繋がりません。逆に、プロジェクトそのものの意義に対して共感してもらえればとても協力的になってくれるはずです。

◯ 企画のゴールはリリース後にこそある

私たちの業務の中で、何かしらの製品や仕組み・制度を「リリース」する瞬間というのは、一つの達成感があります。つい安堵して次の仕事へと進みたくなりますが、目指すべきなのは「その制度が実際に誰の役に立って、どのように良い影響を与えたか」という結果だと思います。

つまり、「Do(何をしたか)」よりも「Be(それによってどうなったか)」にしっかり目を向けるということが重要になります。

新しい人事制度を導入したとき、その制度がリリースされた時点がゴールではありません。大切なのは、その制度を通じて「社員がどう成長したか」「組織がどう変わったか」です。

このように、本来の目的は仕組みが形だけで終わらず、具体的な結果に結びつくことです。この意識が欠けると、プロジェクトはただの「やった感」で終わってしまい、形骸化するリスクも出てきます。本当のゴールは「誰がどうなるか」にあります。

プロジェクトマネジメントにおいても、ただ「Do」したことに満足するのではなく、どのような「Be」が新しく生まれたか。そこに目を向けることが、次の一歩を踏み出すための本当の成功と言えます。

失敗を防ぐための3つのポイント

ここからは、プロジェクトを失敗させないための予防策となるポイントを3つご紹介したいと思います。あくまで僕の経験法則なので、何かのヒントに役立てていただければと思います。

◯ 可逆か不可逆かを見極める

プロジェクトを進めるうえで、最も避けたいのは「取り返しがつかないミス」です。このような「不可逆な決定」は、慎重に扱わないとプロジェクト全体が行き詰まり、最悪の場合、計画そのものを破綻させかねません。

日常の業務の中では見落としがちですが、プロジェクトマネジメントにおいて意思決定を行う際に「これは元に戻せるか?」と一度立ち止まって考えることが、中長期的には非常に重要です。

割れた卵は元に戻せません。元に戻せない決定はプロジェクトをゲームオーバーに追い込む大きな原因になることもあります。だからこそ、プロジェクトの全体像を俯瞰し、「今、優先して対処すべきことは何か?」を常に意識して判断することが重要です。

このような不可逆なミスを防ぐためには「想定力」も大切です。目先の判断でなく、次にどんなリスクや結果が訪れるのかをあらかじめ考えておくことで、プロジェクトの全体感を常に意識し、「優先して対処すべきこと」を見極めることができると思います。

◯ 正しい現状認識をする

「誰が言ったか」を無視して進むのはリスクです。また、情報は一次情報から確認し、「Aさんが言ってた」「Bさんから聞いた」という情報を鵜呑みにせず、実際の状況を把握することも大切です。

ステークホルダーは様々な立場や性格を持っているため、誰がどのような文脈で発言したのかによって、その意味が大きく変わることもあります。慎重に情報収集をし、現状認識を誤らないようにしましょう。

また、八方美人・利己的・恣意的・要領が良い人。特に「勢いで突破しようとする人」の発言には特に注意し、正しく状況を認知した上で冷静に対処したほうが良いです。その場の空気に押されそうになっても、その発言内容をしっかり捉えて判断してください。

◯ プロとしてふるまう

「こんなお願いをしてすみません」と遠慮するのではなく、プロフェッショナルな姿勢を持つことが大切です。もちろん、関係者に対する配慮は大事ですが、それが過剰になると最終的な目的を見失ってしまいます。

人に好かれることが目的ではないです。誰が一番正しいとか、自分がどれくらい貢献したとか、他人や自分に向かわずに、しっかりと「コトに向かう意識」が必要です。

感情論ではなく、互いにリスペクトしつつ、プロジェクトのために合理的な意見を述べることが求められます。プロフェッショナルとして是是非非を言える関係をつくることも重要です。

また、相手が「何を気にして、何を気にしないか」を理解し、状況に応じて柔軟に対応することも必要です。時には折衷案を考え、プロジェクトを前進させる判断も必要です。

ビジネスの全てが詰まっている

プロジェクトマネジメントは、ビジネスのあらゆる要素が詰まった領域です。利害関係の調整、意思決定の連続、チームの信頼関係の構築。そして、人間の自由意志にどう働きかけるかという難しさもあります。

だからこそ、奥が深く、やりがいがあるのだと思います。是非、皆さんの「Good Project Manegiment」のヒントにしていただければ幸いです!


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