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募る恋しさ 海幸山幸26 神様も“失敗”して成長した ことの葉り。百八九


慕情

こんにちは。勢力の強い大型の台風10号が心配な週末。
沖縄、九州、中国、四国と、無難で、もし難があっても最小でありますように!! そして今日も「ことの葉綴り。」に向かいます。


竜宮城から、天孫の御子を出産するために、豊葦原中つ国に
いらした豊玉毘賣さま。
お産をする元の八尋鮫の姿を、愛する夫の山幸彦さまに見られてしまい、あまりに「恥ずかしさ」から、怒りと恨みも芽生えてしまし、海の世界へと、我が子を残して帰ってしまわれました。
本来であれば、「通い婚」で、海と地上の世界を行き来して、夫にも我が子にも会いにくる気持ちでした……。
けれど、約束を破り山幸彦さまが、本当の姿を「見畏み」したことから、「別れ」を決意されて、海と陸の世界に「境」をつくって、海の世界へと、去っていかれたのでした。

突然の別れに、山幸彦さまもショックを隠せません。
愛する妻を失った悲嘆の心は計り知れません。
どれほど、自分の過ちを後悔したことでしょう。

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一方、竜宮城に戻られた豊玉毘賣さまは、どうされたでしょうか?

しばらくの間は、「あれほどお願いした約束を破るなんて」と、のぞき見した夫の山幸彦のことを、とても恨めしく思っていました。
けれど、その怒りや恨みの心以上に、豊玉毘賣さまの心を占めていたのは、夫と自ら産んだ我が子への愛情でした。

我が赤ん坊は、ちゃんとお乳を飲んでいるのでしょうか?
夫は、我が子を抱きしめてくれているかしら?
夫は、私がいなくなり嘆いていないかしら?
あ~あのとき、のぞき見さえしなければ……。


毎日、毎日、地上に残してきた赤ちゃんと、山幸彦のことを想ってばかりいました。

あ~我が子をこの胸に抱きしめたい。
愛する夫の側にいたい。
あ~今すぐにでも、会いにいきたい

時がたつうちに、豊玉毘賣さまの心から、怒りや恨みは消えてゆき、残ったのは慈しみと愛情、恋しさだけでした。

日ごとに慕情が募っていきます

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妹の玉依比賣(たまよりひめ)

会いたくて
恋しくて
ただ、愛おしくて
たまらない……。


募り溢れる想いを、豊玉毘賣さまは抑えることができなくなっていました。

そこで、豊玉毘賣さまは、もっとも信頼する妹の玉依毘賣(たまよりびめ)さまに、一つのお願いをしたのです。

我が妹よ
私は、豊葦原中つ国に遺してきた我が子と、
愛する夫への想いが募り、恋しくてたまりません。
どうか、玉依比毘よ、
私の代わりに、地上へとゆき
大切な天孫の御子である我が子を
愛情たっぷりに育ててほしいのです
そして、この文を愛する夫へと手渡しておくれ。


こうして、豊玉毘賣さまの妹の玉依比賣さまが
地上の宮殿へとお入りになり、
御子を養育することになったのです。

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わが愛を妹に托す

竜宮城とご縁が切れたと悲しんでいた山幸彦さまも、愛する妻の妹を大喜びで妹を迎えました。

私のことを、妻の豊玉毘賣は、さぞ恨んでいるであろう

そうでございますね。
竜宮城に戻った当初は、お恨みしていたようです。
けれど、それ以上に姉は、山幸彦さまと御子のことを
愛おしく大切に思っております。
それゆえ、妹である私に、御子をお育てするようにと
豊葦原中つ国へと遣わせたのでございます。

そういうと玉依毘賣さまはm胸元から大切そうに、豊玉毘賣さまから託された一通の文を取り出して、山幸彦さまに差し出したのです。


赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装(よそひ)し 貴くありけり

私が産んだ赤子のことは、母親として想わない日はありませんが、
それ以上に、さらに白玉のような君の御姿の貴さが、
恋しくて、恋しくて。
今でも愛おしくあなた様をお慕い申し上げております


そこには、溢れるばかりの想いが、綴られた愛の歌が綴られていたのです。

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―次回へ。

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