苦渋の選択　弟宇迦斯　神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り｡二〇六

兄宇迦斯（えうかし）の謀略

こんにちは。連休はどうお過ごしでしたか？　私は昨日からお仕事です。今日も仕事の合間に「ことの葉綴り。」に向かいます。

天孫の御子の伊波禮毘古の苦難続きの東征。
兄を失い、“人生（神生）”のどん底を味わいながらも
天照大御神さまはじめ天つ神の御こころと、
地上での国つ神との新たな出会いにより
大和を目指して進んでいきます。

熊野の山中、吉野の山
そして、宇陀にはいく手を阻む、兄宇迦斯（えうかし）と、弟宇迦斯（おとうかし）という兄弟がいました。

兄の兄宇迦斯は、横暴で敵意をむき出しにして、
お遣いに出した八咫烏に、弓を放って脅し追い返します。
周りのもの達には、天孫の御子と戦をする準備をしろと、声をかけましたが、兄宇迦斯に賛成するものはいませんでした。

それでも、腹の虫がおさまらない兄宇迦斯は、
悪知恵を働かせます。

ああ～いいことを思いついたぞ！！
よし！！
これで、天孫の御子をやっつけてやるわ～！

そして、不気味に笑うのでした。

伊波禮毘古は大丈夫でしょうか？

兄宇迦斯は、大きな御殿を建てました。
そこに天孫の御子を招いて、歓待をして
そして、「これからはお仕えする」というのです。
「いやいや、この間は、突然のことで、
たいそう失礼をしてしまったので、
改めて、お招きして歓迎の宴を催したいのです」

そう、言ってきたのです。
なんだか、態度がころっとかわっていますよね。

言葉とは裏腹に、兄宇迦斯は、その御殿に仕掛けをしていました。
板の間の床にバネを仕掛けて、
床を踏むと、バネの仕掛けが動いて、人（神）を圧死させるという
罠を仕掛けていたのです。

はははは～どうじゃ？
ここを踏むと……ははははは～。
これであの、偉そうな天孫の御子を亡き者にできるわ～
待ち遠しいの～。

満足気に意地悪な笑みを浮かべます。

弟宇迦斯（おとうかし）の良心

そんな兄のしたことを目にして驚いたのは、
弟の弟宇迦斯（おとうかし）でした。

なんてことを……。

弟宇迦斯は、ショックを受けました。
横暴な兄と違い、弟宇迦斯はまじめで誠実な人でした。

このままでは天孫の御子は危ない。
兄も、天孫の御子さまをだまし討ちにしたとあっては……。
こんな謀略で神さまをおとしめてはいけない。
宇陀の誰も、こんなことを望んではおらぬ。
どうすればいいのだ……。

兄に無謀でズルいことはやめるように説得もしてみましたが、

臆病ものめ。
何を言ってる？
もう準備は万端なんだ。
こんな、よき作戦がほかにあるものか。
あとは、来るのを待つばかりじゃ～

まるで相手にされません。

兄に何を言っても無駄だ……。

弟宇迦斯の告白

弟宇迦斯は、思案の末にある場所へと足を運びました。

そこは、伊波禮毘古たちが陣を張るところでした。
伊波禮毘古に面会を求めたのです。

伊波禮毘古も、不思議に思いましたが
弟宇迦斯と会うことにしました。

弟宇迦斯は、頭を下げて天孫の御子に拝礼すると
勇気を出して、話はじめました。

天つ神の御子さま。
宇陀の弟宇迦斯でございます。

本日は、どうしてもお耳に入れたいことがありはせ参じました。
私が兄、兄宇迦斯は……
天つ神の御子の使者である八咫烏を弓で射返しました。
そして、待ち伏せをして御子さま一行を攻めるために
軍隊を集めようとしましたが、宇陀の者たちは、従わず
集まりませんでした。

すると、兄は、御子さまたちを歓待するためと言いながら
大きな御殿を建てましたのはご存じかと思います。
けれど、この御殿には、罠がございます。
御子さまを圧死させて亡き者にする仕掛けをつくり
待ち受けているのでございます。

伊波禮毘古は、頭を垂れている弟宇迦斯に言葉をかけました。
弟宇迦斯よ、
よく、正直に知らせてくれた。
兄のことを、私に知らせるには勇気もいったであろう。
ほんとうによく話してくれた。

二人の“弟”

四人の男兄弟の末っ子だった伊波禮毘古です。
兄の五瀬命と信頼関係もあり仲良しだった末っ子です。
兄と弟の関係性は、わかりすぎるほどだったはずです。
兄の謀略を知らせてくれた弟宇迦斯の、勇気、正直さ、誠実さと
兄を“裏切る”ことになる苦渋の選択を選ばざるえなかった
深い“悲しみ”にも思いをはせたでしょう。

弟宇迦斯よ、
ありがたい。
私には、天つ神の御こころから託された使命がある。
ここで、死ぬわけにはいかぬ。
お主の恩を、心を、決して無駄には決してせぬ。
礼をいうぞ……。

そういうと、伊波禮毘古は、大伴連（おおともむらじの）の祖先となる道臣命（みちおみのみこと）と、久米直（くめのあたへ）の祖となる大久米命（おおくめのみこと）を呼びました。

兄宇迦斯の謀略を知った伊波禮毘古。
この難関をどう乗り越えるのしょうか？

―次回へ