美しい神の御子媛 ことの葉綴り。二一五
大后(おおきさき)を求めて
中秋の名月、今夜のお月さまが待ち遠しいです。その前に、「ことの葉綴り。」のひとときです。もうすぐ日が暮れます。
「豊葦原(とよあしはら)の瑞穂国(みずほのくに)は、
わが子孫の君たるべき国なり」
天照大御神さまの孫の邇邇芸命(ににぎのみこと)から四代目、
神倭伊波禮毘古(かむやまといわれひこ)は、苦労の旅の末
国を平定して、初代神武天皇なられました。
ご即位をなさったという橿原宮の伝承地である
畝傍(うねび)宮遺跡に、神武天皇陵と、
橿原神宮がご鎮座されています。
ご祭神は、神武天皇と、
皇后の媛踏鞴五十鈴媛命(ひめたたらいすずひめのみこと)です。
『古事記』では、富登多々良伊須須岐比賣命(ほとたたらいすすきひめのみこと)または、
比賣多々良伊須氣余理比賣(ひめたたらいすけよりひめ)です。
今日は、神武天皇の皇后になられた、この媛(ひめ)の物語をご紹介です!
神倭伊波禮毘古(かむやまといわれひこ)は、
大和の橿原宮で即位をされて初代天皇となられました。
日向の高千穂で、国を治めていたときに、
阿比良比賣(あひらひめ)という妻を娶り、
多藝志美美(たぎしみみ)命と、
岐須美美(きすみみみ)命という二柱の子どもがいました。
けれども、国の平定の旅に出立するとき、妻子は、日向の高千穂の宮に残してきていたのです。
日向を旅立ち、二十年近い歳月が流れていました。
大和の国を平定し、初代の天皇(すめらみこと)に即位もした、
神倭伊波禮毘古(かむやまといわれひこ)に、ふさわしく
大和の国で共に過ごす新たな大后(おおきさき)が必要でした。
みなが、天皇の大后にふさわしく美しい媛女(をとめ)を探しておりました。
そんなとき、重臣の大久米(おほくめ)命が、こんな話をしたのです。
「大王(おおきみ)さま。大后にふさわしい由緒正しき、美しい媛女(をとめ)がいらっしゃいました。
大和の地には、神の御子といわれる媛女(をとめ)がいるのです!!」
なんと? 神の御子であると?!
神の御子の誕生秘話
なぜ、神の御子の媛なのでしょう?
大久米(おほくめ)命は、こう続けます。
三島(大阪府三島郡)の溝咋(みぞくひ)の娘に、
たいそう美しく麗しい、勢夜陀多々良比賣(せやだたらひめ)が、おりました。
大和の三輪山の神である、大物主神(おおものぬしのかみ)が
その比賣を見初め、惚れたのでございます。
恋をした大物主神(おおものぬしのみ)は、
ある日、その比賣が、川にある厠に入り、大便の用をたしているときに、なんと、赤く塗った矢に変身をして
川の上流から流れていき、厠にいる美しい比賣の陰(ほと)、
女陰を突き上げたのです。
驚いた比賣は、慌てふためいて、その赤く塗った矢が刺さったまま逃げ出したそうです。
けれども、女陰(ほと)から、矢を抜いてみると、
朱塗りの美しい矢であったので、
寝所に持ち帰り枕元に置いたのです。
すると、朱塗りの赤い矢は、
たちまち見目麗しい立派な男性の姿に、
大物主神(おおものぬしのかみ)の姿に成りました。
なんて麗しい方……。
そして、大物主神(おおものぬしのかみ)と、
美しい勢夜陀多々良比賣(せやだたらひめ)は、結ばれました。
大物主神(おおものぬしのかみ)は、
惚れた美しい比賣を、妻に娶りました。
そして、生まれたのが、
富登多々良伊須須岐比賣命(ほとたたらいすすきひめのみこと)。
またの名前を、比賣多々良伊須氣余理比賣(ひめたたらいすけよりひめ)と仰います。
それゆえ、この比賣は、大物主神(おおものぬしのかみ)の御子と言われているのです。
三輪山の大物主(おおものぬし)神の娘
以前、大国主(おおくにぬし)神さまの物語で、
この大物主(おおものぬし)神さまは、登場しています。
覚えていますか?
大物主神(おおものぬしのかみ)は、
大国主神の別名、大己貴神(おおなむちのかみ)の
幸魂奇魂(さきみたま。くしみたま)です。
日本最古の神社、奈良の大神(おおみわ)神社のご祭神で、
三輪山にお祀りされています。この三輪山がご神体です。
神倭伊波禮毘古(かむやまといわれひこ)の皇后候補に
選ばれたのは、この大物主神さまの娘神だったのです。
富登多々良伊須須岐比賣命(ほとたたらいすすきひめのみこと)
から、比賣多々良伊須氣余理比賣(ひめたたらいすけよりひめ)に
お名前を改められたのですが、
これは、「富登(ほと)」、ほと(女陰)ということを忌み嫌い、
比賣(ひめ)と改められたそうです。
そりゃあ、名前に、それはちょっと……ってなりますよね(^^)
大久米(おほくめ)命は、
この美しき神の御子の媛女(をとめ)こそ、大后(おおきさき)にふさわしいと、大王(おおきみ)こと、神倭伊波禮毘古(かむやまといわれひこ)に推薦をしたのでした。
さあ、この神の御子の美しい比賣と、結ばれるのでしょうか?
―次回へ
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