お酒にはご注意を! 神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。二〇八
八十建(やそたける)への作戦
こんにちは。今日も仕事のあと夜になりましたが、「ことの葉綴り。」に向かいます。
天孫の御子の伊波禮毘古の東征。
宇陀の兄宇迦斯の謀略を、弟宇迦斯が打ち明けてくれたことにより、兄宇迦斯(あにうかし)を撃ち取りました。
弟宇迦斯(おとうかし)は、伊波禮毘古に仕えることになり、
その後、宮中の水を管轄する「宇陀の水取(もひとり)」となりました。
伊波禮毘古も、この宴で、これまで苦労を掛け続けてきた
一行の兵士たちをねぎらったのでした。
そして伊波禮毘古一行は、さらに大和へと向かい前進します。
宇陀から、大和の国の忍坂(おさか)の大室(奈良県の桜井市のあたり)へと到着したときのことです。
険しい岩山のほら穴から
呻くような声が聞こえてきます。
これはいったいなんだ?
そこは土雲(つちぐも)と呼ばれる、尾のある獣の皮を身にまとった土着の八十建(やそたける)という名の、勇猛なものたちが、
住居のほら穴で、伊波禮毘古たちを撃ち取ろうと、うなり声を上げて、今か今かと、待ち受けていたのです。
先へ進むには、ここはどうしても通り抜けなければいけません。
とはいえ、正面から戦っても、相手に地の利があるだけです。
こちらの犠牲がどれほどになるか、わかったものではありません。
登美の戦いで、苦戦し、大切な兄を失った……
あんな悲しい思いはもう決してしたくない……。
どうすればいいか……。
伊波禮毘古は、どうしたものか? と一考します。
我が歌を聞け!
伊波禮毘古は、この土雲八十建を持てなす、と言い出しました。
よいか、八十建全員に、
この天孫の御子が、ご馳走をふるまうので
大きな洞窟の宴の会場へ集まれと伝えよ。
そして、来客の八十建の一人ひとりに、
酒や料理の給仕のものとして、我らの兵をつけよ。
そのものたちは、剣を持っておくように。
私が、八十建たちを、歌を歌いもてなそう!
私が歌を歌うゆえ、合図をしたならば
一緒に立ち上がり、八十建たちを斬るのだ!
よいな~。
美味しい酒とご馳走があると聞いて
獣の皮をまとった八十建たちが、
ほら穴へと集まってきます。
伊波禮毘古の家来たちが、お酌をして酒とご馳走を進めます。
宴会は盛り上がってきました。
そこに伊波禮毘古が登場します。
八十建のみな
よく集まってくれた。
私が歌で歓待しよう
と歌を歌い始めました。
♬忍坂の 大室屋に 人多(ひとさわ)に 来入り居り
人多に 入り居りとも みつみつし 久米の子が
頭椎(くぶつつい)、石椎(いしつつい)もち 撃ちて止まむ
みつみつし 久米の子等が 頭椎(くぶつつい)、石椎もち
今、撃たば良らし!♬
これはこういう意味の歌でした。
忍逆の大室に たくさんのものが住んでいる。
どれほど多く住んでいたとしても
武勇に優れた久米の者たちが、
鋭い頭椎(かぶつい)の太刀と、石椎の太刀を引き抜いて
打ってしまおう
勇猛な久米の者たちよ
頭椎、石椎を手にして
さぁ、今だ!!!
撃つのじゃ~~!!!
お酒にご注意を!
な、なに~
騙したのか?!
八十建たちが、気づいたときには、酒が回っていてうまく逃げることができませんでした。
伊波禮毘古の歌声を合図に
配下の久米のものたちが剣を抜いて立ち上がり
どうもうな八十建たちを、撃っていったのです。
出雲の神話の、須佐之男命様が、
八岐大蛇退治をしたときのように、
お酒を飲ませて、酔わせてから撃ち取る。
強い獰猛な相手に向かうとき
伊波禮毘古も、須佐之男命様の物語を,
思い出されたのかもしれませんね。
歴史は繰り返す。
そして、「酒」は、神さまへの神聖なご神饌にもなれば、
人としては、人生を破滅させる「過ち」にも通じます。
私たち人間は、お酒での“失敗”で、人生が取り返しのつかないことにもなります。
それは今の時代にも、同じかもしれません。
神話は、そんなことも、伝えてくれているのかもしれません。
お酒の飲み過ぎは、ご注意くださいね。
そして。伊波禮毘古は、
いよいよ、兄の五瀬命を失い、逃げることを余技なくされた
仇敵の登美の那賀須泥毘古を、残すだけとなったのでした。
兄さん、ようやく、ここまで来ましたよ……。
―次回へ
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?