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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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2021年3月の記事一覧

3月31日 動物園の中学生と越前の庭

3月31日 動物園の中学生と越前の庭

 1年強ぶりの動物園は、コロナの前を思い出すほどに人が多かった。ソーシャルディスタンスは2m。平均的なオオカンガルーの頭としっぽの先を直線で結ぶ程度、だそうだ。カンガルーたちは日曜のダメ親父のごとく地面に寝そべっていること多いので、あまりピンとは来ない。

 世界のサルコーナーが終わったあたりですれ違った二人組が印象に残った。中学生くらいの男の子と、その祖父と思しき男性だ。男の子は男性の左側(内側

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3月29日 海の桜と夜空に散る花

3月29日 海の桜と夜空に散る花

 3月にして今年4度目の海に来た。

 2月で春の陽気をたたえていた海辺は、3月ともなると初夏を感じさせる。

 大きな防波堤で次男を釣りデビューさせた。帰り際、隣の釣り人が次男に「釣れたかい?」と聞くので、「まあ釣りごっこですから」と代わりにこたえた。もっと他の答え方があったかもしれない。「経験するのが大事だよ」と釣り人は笑った。

 海岸にはタコノマクラがたくさん落ちていた。

風も無い春の海

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3月28日 僕のキョナラと俊成女の幻想

3月28日 僕のキョナラと俊成女の幻想

 京都、奈良を移動する機会があった。

 昼間は渋滞が激しくなっており、人が動き始めていることを感じた。しかしまだ朝や夕方は少ない。晴天の下の静かな古都で、満開の桜に触れた。

(宇治・平等院鳳凰堂と桜)

(奈良・東大寺大仏殿と桜)

 これだけの観光地でも、すでにいくつもの観光施設が廃業に追い込まれたという。ひたすらに美しい桜は、どこか作り物めいた静謐をまとっていた。

咲き満ちて人待ち顔の桜

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3月24日 家族の朝食

3月24日 家族の朝食

 今日は久々に家族全員が休みの日。僕はベーコンを焼き、長男は卵焼きを作り、妻ははちみつパンを提供し、ばあばのおはぎが冷蔵庫から出された。次男と娘はにやにやしている。

 ベーコンをかじり、卵焼きを分けてもらい、おはぎを食べる。はちみつパンは子どもたちが持って行く。卵焼きがうまいと笑う。残り少ないベーコンを、ほんの一口ずつ分け合って笑う。テレビもつけず音楽も聞こえず、穏やかな時間が流れる。楽しいとい

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3月23日 僕の喧嘩と空を染める桜

 ドラえもんドンジャラにはゲームが50個用意してある。その8つ目をやったのかやっていないのかで長男(7歳)と喧嘩した。

 大人組は「やった」で一致しているのだけれど、証拠がないから水掛け論にしかならない。やがて長男の声がヒートアップしてくる。話を聞かずに絶叫する。その姿に「あ、これ自分の間違いに気が付いたけど後に引けなくなってるやつじゃないかな」なんて思ったりした。実際はわからない。

梢から雪

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3月22日 先生の仕事と慈円の孤独な桜

3月22日 先生の仕事と慈円の孤独な桜

 長く休んでいる子に電話をかけた。

「元気かい」
「ええまあ」
「どうするか、こっから」
「いや行きますけど、普通に」

 決してご機嫌に応えてくれたわけではない。でも「普通に」が心に残ってジンジンと暖かい。

 後で母親にも電話をした。「普通に」を伝えると、意外そうに喜んでいた。時間が解決するものもあったのかもしれない。

陽だまりに置かれた椅子は身に熱を帯びて座られるのを待ってる

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3月19日 短歌の穴埋めと『金葉和歌集』の桜の咲き初め

3月19日 短歌の穴埋めと『金葉和歌集』の桜の咲き初め

 短歌の練習。

 今夜は短歌の穴埋めクイズを作成してみる。まずは笹本碧の『ここはたしかに 完全版』(ながらみ書房 2020)から。

晴れたから単語のおぼえかたじゃなく(   )を君と話した

 選択式にしてみよう。

⓵風の行く先  ②空の青さ  ③星の温度  ④鮫の見る夢

 生徒に出題して選ばせても面白いかもしれない。どれを選ぶかより、選んだ理由と向き合えればいい。その上で、空欄を埋める自

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3月18日 短歌の練習と橘さんの焦り

二歳児に読んでやるよと四歳児十年後にも言ってやがれよ

スイッチは店じまいです父を見るな君は母御を怒らせました

湯船にて湯をぶちまける吾子は七つ七回までなら全力でやれ

坂道を登る我が子を見送れる我を見守るどっかのおばば

ブラジルにマリオを飛ばした才人は道徳でたぶん優をとっていた

USJグアムフィリピンオアフ島ガイドブックは今日も増えゆく

☆ ☆ ☆

 桜の咲き始めの歌を集めている。今日

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3月17日 恩人

 職場の恩人が亡くなった。

 僕が住んでいる土地は、元々知り合いもいないところだった。僕は住み始めた当初、ずいぶん寂しい休日を送っていた。
 その人は僕のプライベートに関わるような人ではなかったし、そもそも人との距離感を丁寧に測る人だったから、あまり踏み込んだ付き合いがあるわけではない。それでも時おり僕を気にかけてくれていたし、美味しいレストランを教えてくれたりした。実家にこの土地の名産を送るよ

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3月16日 短歌の空欄補充と拾遺集の風と桜

3月16日 短歌の空欄補充と拾遺集の風と桜

 木下龍也『天才による凡人のための短歌教室』(ナナロク社)に「テンプレ化する」という短歌の練習方法が載っていた。名歌に穴をあけ、好きな言葉を入れて複数の歌を作ってみる方法だ。やってみよう。

底に塩ばかり残ったふりかけをいつまでゆかりと呼べるだろうか
                       (平井まどか)

 これを虫食いにする。

〇〇〇〇〇ばかり残った〇〇〇〇をいつまで〇〇と呼べるだろう

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3月14日 息子のハワイと式子内親王の開花宣言

3月14日 息子のハワイと式子内親王の開花宣言

 日曜だ。

 7歳の長男は最近、公園の遊具制覇に挑戦している。去年まで高くて登れなかった塔。足元が不安で渡れなかったネット。あちらこちらの公園にいっては、次々に挑む。 

 大方は制覇できるのだけれど、時々あきらめるものもある。落下と痛みの可能性を想像してしまう場所には尻込みしてしまうようだ。それらを下から眺めながら、訳知り顔で「これは8歳になってからだな」とか批評している。

 今日の公園の制

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3月13日

 授業が終わり、学年末考査2日目。

試験中起こしたやつがまた寝てる問題少し増やして先生

教室に貼ったプリント吹き飛ばす風は学食のメニューを告げる

3月12日 息子の褒め言葉と藤原雅経の花と月

 朝、自作のベーコンを切ってキッチンペーパーでくるみ、電子レンジであたためた。ネットの情報通り、カリカリベーコンが完成した。

 興味がありそうな息子に食わせた。いいね、と言っていた。塩が効いていていいね。
 七歳児のほめ方は、やたらと具体的なのである。

 ともあれようやく、息子に褒められるベーコンにたどり着けた。ベーコンそのものの問題というより、調理法の問題だったようにも思う。カリカリに仕上げ

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3月11日

 10年前も穏やかに授業を終えた。

 職員室では情報が出始めていたように思う。下っ端の僕は自分のPCで情報を検索し始めた。

 地震の話はいつから津波の話に取って代わられただろう?ひょっとすると取って代わられていないのかもしれない。終始地震の話で、津波がきたり原発が危なかったり、散発的に情報が示されていたのかもしれない。

 もうその時のことを、覚えていない。何度も何度も記憶を塗り替えられ、僕の

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