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短編小説

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#SF

タイムスリッパーと呼んでくれ

タイムスリッパーと呼んでくれ

「照査をするから、図面を印刷しておいてくれ」
「はい、わかりました」

慣れない設計の仕事に携わって、早数ヶ月。
最初の頃は一歩進むごとに三歩戻っていたのが、最近は簡単なものであれば一人で完結させることが出来るようになってきた。
「お願いします」
上司に印刷した図面を手渡す。
自分でも何度も見直したし、構造が複雑なわけでもない。
今回は差し戻されない自信があった。

「んー……」
緊張しながら返事

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良い子、良い大人

良い子、良い大人

「ですから、このままですと数年で組織が崩壊してしまいます!」
少子高齢化が進行した結果、子供とサンタの人数は徐々に近づき、やがてサンタの人数が子供の人数を追い抜こうという所まで来ていた。
『リストラ』『希望退職』
物騒な言葉が頭を過る。サンタがリストラされるなんて、そんな夢のない話があるか。それだけはなんとしてでも避けたい。管理職の自分は、いよいよ結論を先延ばしに出来ない所に来て焦っていた。
「う

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おじいちゃん部|#完成された物語

最近、公民館の予約表に『おじいちゃん部』がよく登場する。

「何かしら、おじいちゃん部って。老人会の男性版?」

「キャッチコピーはアンチアンチエイジングだって」
ポスターを見て私は母に答えた。

遠い耳は補聴器、曲がる腰は矯正下着、深い皺は美容整形。

この半世紀で進歩した医療や科学の技術のおかげで、老人も若者と何ら変わらない見た目と暮らしぶりをしている。

対して、この部はあるべき姿のまま自然

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1アンペアでも人は死ぬ

1アンペアでも人は死ぬ

 さまざまな形のスマートデバイスが普及して久しい。このスマートウォッチは、心拍計と睡眠モニタリング機能も搭載されたタイプだ。取得して蓄積されたデータは解析され、リアルタイムに状況分析が行われフィードバックされる機能を備えている。ある意味、自分よりも自分について詳しい存在と言えるのかもしれない。
 また、健康管理機能もあり毎日決まった時間に起床するよう設定したアラームはもちろん、睡眠時の寝汗を検知し

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異世界からのもの

異世界からのもの

 全国的に記憶喪失者が急増するという奇怪な現象が起こるようになって半世紀近くが経った。喋れないもの、読み書きできないもの、気が狂うもの等多くは意思疎通に問題を抱えた状態での発症で、中には会話はできるものの文字が全く読めないといった症状も見られたという。様々な研究の結果、記憶喪失の原因が異世界転生だと断じられたのはほんの十数年前のことだ。にわかには信じがたいことだが原因が特定されてからの社会の適応は

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