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良い子、良い大人

「ですから、このままですと数年で組織が崩壊してしまいます!」
少子高齢化が進行した結果、子供とサンタの人数は徐々に近づき、やがてサンタの人数が子供の人数を追い抜こうという所まで来ていた。
『リストラ』『希望退職』
物騒な言葉が頭を過る。サンタがリストラされるなんて、そんな夢のない話があるか。それだけはなんとしてでも避けたい。管理職の自分は、いよいよ結論を先延ばしに出来ない所に来て焦っていた。
「うーむ、良い子だけでなくそんなに良い子でない子にもプレゼントを配るようにするか……」
「良い子の基準を徐々に緩和し続けて何年になりますか。それに、サンタは子供の素行不良を抑止するのに一役買っていると言います。これ以上良い子のハードルを下げるのはあまり得策ではない……いや、悪くない発想かもしれません。子供だけではなく、大人にもプレゼントを配ればよいのです。つまり年齢制限の緩和です」
「大人になってもサンタを信じ続けるやつがいるか」
「日本中を探せば一人くらいいるでしょう。今は大人にプレゼントをあげた実績が無いから誰も信じていないだけです」

「ふあぁ〜よく寝た」
休日でもいつもどおり規則正しく起きる。
そういえば今日はクリスマスかぁ。下の弟が中学に上がったくらいからサンタさん来なくなっちゃったんだよね。サンタなんていないって皆んな言うけど、作り話にしては設定が凝りすぎだし、いると思うんだけどなぁ。まぁでも私もハタチなって『良い子』とはいえなくなっちゃったから、信じようが信じまいがって感じねぇ。
枕元を見ると、キラキラした物があった。不思議に思って手に取ると、美しく、聞いたことのない優しい音のする鈴だった。
「えっ、すごい!」
パシャッ
「ハタチだけどサンタさんからプレゼント届いた。7年ぶりくらい!信じていたら良いことあるね!」
ピロン

 彼女のSNS投稿はバズりにバズった。嘘だと言う人も最初は多かったが、鈴愛好家や鑑定士、古物商、学者など様々な人がお墨付きを与えてから世間は湧いた。

「このために特別に作ったのだから珍しいのは確かだけど、鈴一つでこんなになるなんて」

 それから、日本の治安は明らかに良くなった。犯罪率は減り、誰もが規則正しい生活をし、善行に励むようになった。人は心穏やかに、子供から大人までサンタを心待ちにしながら日々を過ごしている。特にサンタからプレゼントを貰った大人はお墨付きの『良い大人』として周りから一目置かれ、
「いい人紹介してよ〜」
の筆頭株として良縁に恵まれるようになった。

「サンタは大人の素行不良を抑止するのにも一役買っている、と」
社会学者だったら論文にでもしたいところだ。
「副次的とはいえ、出生率が上がったのが特に良かった」
風が吹けば桶屋が儲かる。サンタがくれば家族が増える。
ここは世間に公表されない国家機関。
厚生労働省 子ども家庭局 サンタ課。

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気が赴くままに。
昨日の投稿よりも、自分らしい創作文章だなぁと感じる。

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