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タイムスリッパーと呼んでくれ

「照査をするから、図面を印刷しておいてくれ」
「はい、わかりました」

慣れない設計の仕事に携わって、早数ヶ月。
最初の頃は一歩進むごとに三歩戻っていたのが、最近は簡単なものであれば一人で完結させることが出来るようになってきた。
「お願いします」
上司に印刷した図面を手渡す。
自分でも何度も見直したし、構造が複雑なわけでもない。
今回は差し戻されない自信があった。

「んー……」
緊張しながら返事を待つ。
「よくやってくれた。ただ、タイムスタンプがおかしいから、そこだけ修正しておいてくれ」
印刷された図面を見ると、右下のタイムスタンプは3年後の日付を示していた。
しかし、PC上の表示は確かに今日で間違いない。

「変だなぁ」
設定を変えたりファイルを保存し直したりしても、印刷をするとタイムスタンプはおかしいままだった。
加えて、3年後、4年後、5年後……と、徐々に数字が増えていくのが不気味だった。

「もういい、私がやる」
上司のPCから印刷命令をかけると、複合機はPCの表示と相違無いものを吐き出した。

「ええと、俺のことはタイムスリッパーとでも呼んでください」
結局、原因はわからずじまい。
俺の叩いた軽口に上司は苦笑いをして、その場は流れた。


「今日も疲れたなぁ」
一日働いた自分を労いながら伸びをしていると、突然複合機が動き出した。
印刷されたものを見た時、3年前の出来事が鮮明に思い出される。
何だ何だと横から覗き込んできた上司も同じらしく、ぎょっとした顔をしている。
今年入ってきた新人だけがポカンとしていた。

「先輩、何かあったんですか?」
「は、はは……。俺のことはタイムスリッパーと呼んでくれ」

複合機が新しいものに交換されるまで、年に一度の時報のようにこの図面は印刷され続けた。

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先日、職場で似たようなことがありました。
そのときのタイムスタンプは1945年。
会社も複合機も無い時代で良かったと思います。

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