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短編小説

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2021年12月の記事一覧

良い子、良い大人

良い子、良い大人

「ですから、このままですと数年で組織が崩壊してしまいます!」
少子高齢化が進行した結果、子供とサンタの人数は徐々に近づき、やがてサンタの人数が子供の人数を追い抜こうという所まで来ていた。
『リストラ』『希望退職』
物騒な言葉が頭を過る。サンタがリストラされるなんて、そんな夢のない話があるか。それだけはなんとしてでも避けたい。管理職の自分は、いよいよ結論を先延ばしに出来ない所に来て焦っていた。
「う

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クリスマスのリクルーター

クリスマスのリクルーター

 家に帰るため、職場の最寄り駅に向かって凍えそうになりながら歩いていた。
「はぁ……。転職、したいなぁ」
世間はクリスマスで浮かれているというのに、俺はトラブル対応続きで毎日残業だ。通っていたジムも、会費だけを支払って店で通わなくなってしまった。
「もう死んでしまおうか」
鬱々とした気持ちで顔がうつむきがちになっていたせいか、目の前の老人に気づくのが遅れ、ぶつかってしまった。
「わっ!すいません」

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母が魔女だった時

母が魔女だった時

 4歳ぐらいのある日、眠れずに部屋を出るとぼんやりとした灯りのみがぼうっと影を作る暗い部屋に母が一人佇んでいた。灯りをよくよく見ると、とても小さな炎だった。
「……」
母は無言だった。薬草のような香りが匂いが立ち込めていた。やがて炎が消えると、その炎を支えていた器を口に運んだ。
「魔女の嗜みってやつよ」
保育園で読んだ絵本の中の魔女を鮮明に思い出した。全身を覆う黒い服を着て、派手な装飾品を身につけ

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言葉の足りない料理店 ┃#完成された物語

言葉の足りない料理店 ┃#完成された物語

仕事終わりに小料理屋に行くことになった。
「腹を割って話そう」と誘ってきた上司は客先への緊急対応のため、俺一人で先に向かう。
曰く、大将は堅気で目利きは一流らしい。

店に入ってカウンター席に腰を下ろす。
いくつか個室もあり、中の様子は伺えないが先客がいるようだ。

女将が静々とそのうちの一つに入った。
「坊主殺しです」
場にそぐわない物騒な言葉に思わず聞き耳を立てる。
「良い鉄砲が入っていますが

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君にしか見えない ┃#完成された物語

君にしか見えない ┃#完成された物語

君が遠くへ行ってしまってからもう1年も経つんだね。
あの子は相変わらずちょっと素っ気ないけど、健やかに成長しているよ。
いつもは学校に置き勉して身軽な状態で帰ってくるのに、今日は大きな荷物を抱えていてね。
それが何かを聞いても目をそらして、「お父さんには関係ない」なんて言うんだよ。
1年前のあの日もそんな感じだったっけ。
君が「朝ご飯食べなきゃ力でないわよ」って声をかけたら、「お母さんには関係ない

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