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#恋愛
『シンプルな世界』二十(最終話)
二十
ついにソウに実際に初めて会う日がやって来た。いつものように和貴と愛は一緒に朝市で食材を買い込むと、すぐに自宅に戻って昼食を食べてから出掛ける準備をした。
「愛、行くぞ」
「今、行く!」
愛がご機嫌そうにヒールを履いて、玄関で待っていた和貴の腕に捕まる。彼はそんな彼女を微笑ましく思いながら、家の鍵をかけた。
目的地は繁華街を少しずれた路地裏の小さなビルにあるようだった。例の会は特に拠
『シンプルな世界』十九
十九
あれから色々調べていた和貴だったが、調べる中で「ヒューマノイドとの結婚を実現させる会」というオンラインサークルの存在を発見した。ホームページに飛んでみると、そこには自分が所有しているヒューマノイドと本気で結婚を考えており、そのための署名活動や街頭演説を行なっているとのことだった。
興味を持った和貴はそのホームページの質問欄に入会希望の旨を書いて送信した。数時間後に、そのサークルから返信が
『シンプルな世界』十八
十八
和貴はまず、ヒューマノイドとの結婚を何が妨げているであろう、ヒューマノイドと人間の違いを調べるところから始めた。インターネットでヒューマノイドと人間の違いを調べてみると、「察することができない」や「子孫を残せない」といった否定的な意見が目立つなか、最も大きな違いと思われるものを発見した。それは、「不老不死」だった。
ヒューマノイドは以下の三拍子が揃っていた。歳を取らない、死なない、そして
『シンプルな世界』十七
十七
暫く大学を休んでいた仁が気掛かりだった和貴は何度も電話したりメッセージを送ったりしたものの返信がなかった。いよいよ警察に連絡することを考え始めた頃、ようやく仁が大学に顔を出した。
「仁!」
少し窶れた仁の体をがっしりと掴みながら、和貴が話しかけると「すまんな」と力なさげに笑った。
「単位ギリギリだぞ、お前。もうここから一回も休めないこと、わかっているのか?」
「ああ」
これまでの講義資
『シンプルな世界』十六
十六
夏休みが終わり、大学の後期開始、初日。案の定和貴と講義が被った仁は、一緒に講義を聞くと昼食を共にして帰宅した。すると、いつもは出迎えてくれるはずの凪の姿が見当たらず、慌てて部屋の中へ入った。ダイニングテーブルの上には置き手紙だけが置いてあった。その手紙曰く、仁に愛想が尽きて自ら返却手続きを行ったとのこと。また、お見合いをするならこの女性にすべきだ、と写真付きでアドバイスも書かれていた。
「
『シンプルな世界』十五
十五
仁の家は良いお家柄だった。所謂、旧家だ。仕来りが数多くあり、幼い頃から抑圧された上に父親から暴力を振るわれる環境で育った彼は、無理矢理大学から一人暮らしを始めた。当初は家賃も光熱費も全て仁が自腹で払わなければならない約束だったが、息子可愛さに母親が父親に頼み込み、遊ぶお金だけは自分で工面することになった。世間から見れば十分贅沢な方だったが、何せこれまで何不自由なく生きてきた仁には少々窮屈だ
『シンプルな世界』十三
十三
前期のテスト週間が終了した。つまり、夏季休暇に突入した。大学生の夏休みは二ヶ月近くあり、長い。多くの学生はバイトを半分、遊びを半分という風に休暇を使う。和貴もその例外ではなかった。八月は新しいバイトに打ち込み、それなりの給料を稼いだ。九月に入り、愛が来てから二ヶ月ほど経った頃、初めて二人きりでの遠出が実現した。日帰りで河辺に遊びに行くことにしたのだ。愛が川に触れたことがないと言ったことがき
『シンプルな世界』十二
十二
最後の出勤日が終わった。和貴は小林とシフトが被った。幸か不幸か斉田とは重ならなかった。
「え?辞める?」
辞めたら俺が美里チャン貰うのに、と小林が言う。和貴は「お好きにどうぞ」とだけ言うと、挨拶回りのためにキッチンへと向かった。皆、和貴が唐突にやめる理由は店長から聞かされていないようで、彼を惜しむ声が多かった。中には不躾に「何かやらかしたわけ?」と聞いてくる輩がいないでもなかったが、大半
『シンプルな世界』十一
十一
二人がやってきた先はバイト先のカフェのすぐ近くにあった二十四時間営業のファストフード店だった。適当に飲み物を注文した後、向かい合って座る。
「んーと、美里ちゃんの疑問は俺がなんで急にカフェをやめるか、だったよね?」
「はい、そうです」
「それは俺がこれから人間関係を壊すから」
「人間関係を壊すって……どこのですか?」
「あのカフェの」
ご冗談を、と心底おかしそうに笑っていた斉田だったが和
『シンプルな世界』十
十
目の前のとんかつ丼を見つめていると、仁が「そうだった!」と両手を叩いて笑っていた。「もう勝負事なんて暫くないのになんでこいつとんかつ食べているんだ。変わった奴と思っていた記憶がある」
「別にいいだろう。とんかつ美味いんだからいつ食ったって」
「ああ、構わんさ。構わんけどその時の俺にとって強烈だったんだよ」
元気にはなるけどな、と仁は付け加える。斉田は味噌汁を啜りながら「そういう出会いだった
『シンプルな世界』九
九
まだ高校生から抜け切れていない青年たちがスーツ姿に身を包んで一挙に大学に押し寄せていく。その大学の正門前には入学式と書かれた立て看板が門に立てかけられていた。その看板の前には長蛇の列が出来ている。和貴はそれを尻目にズンズンと入学式会場へ向かっていく。サークル勧誘のビラも足早に躱していく。それでも、いくつかの強引なサークル勧誘の先輩に捕まり、仕方なく何枚かのビラを掴まされた。それを皮切りに多く
『シンプルな世界』八
八
帰宅すると、愛がいつものようにご飯を作って待っていた。
「おかえり」
「ただいま」
やけにしっくり来るその言葉に、仁の存在を思い出していた。
「今日はなんだか嬉しそう。いいことあったの?」
和貴は「まあね」と微笑むと靴を脱いでそのまま部屋に上がった。「いいことあったんだね」と嬉しそうに言う愛の言葉に自然と口角が上がる和貴だった。
「今日の夜ご飯は青椒肉絲だよ。野菜をたっぷり食べないとね」
『シンプルな世界』七
七
和貴が集合時間ぴったりに行くと、既に他の三人は来ていた。
「お、来た。これで全員揃ったな?よし、出発!」
渋谷行きの列車に乗り、混雑するハチ公前に辿り着いた。そこから、仁が行ってみたいと言っていた最近人気のイタリアンレストランに向かった。仁のヒューマノイド彼女が予め予約しておいたという。
「凪さん、ありがとうございます」
斉田が仁のヒューマノイドに向かって軽く頭を下げると、彼女は「いえ」