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ショート小説まとめ

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オリジナルのショート小説をまとめています。科学を題材にしたものから、ノンジャンルまで。
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#眠れない夜に

わたしの日常が揺らいだ日[ショート小説]

わたしの日常が揺らいだ日[ショート小説]

高校2年の夏休みに出会った漫画は、救いのない道に進んでしまう姉と弟の話で、私は退廃的な世界観にのめり込んだ。周りに追い詰められていく姉と弟の展開に心を締め付けられながら、エアコンが無い自室で1ページずつ味わう私の顎と胸には汗があふれた。

秋の土曜深夜、眠れないことに諦めて布団から出る。昼寝しすぎたようだ。同じ漫画家の初期短編集を古本屋で見つけて買ったが、まだ読んでいない。

短編の1つめは、見た

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スペクトル

スペクトル

「夕日は虹みたいに色が分かれているから赤だけじゃなくて黄色も緑色もあるんだよ」

物知りのT君が今日も新しいことを教えてくれた。
塾帰りの18時過ぎ、土手で空を眺めた。

「黄色はわかるけど緑はどこ?」「あそこだよ」「どこ?」「煙突の先のあたり」「うーん、緑に見えなくもないけど、青じゃね?」「あぶない!」

突然手を引き寄せられた。後ろから自転車が来ているのに気づかなかった。

夕方に土の匂いを嗅

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マスクとK子

マスクとK子

夕方、街で用事を済ませてから本屋に寄ると、視界の端に入った人物が気になって二度見した。K子? マスク越しでもあの天然パーマの髪型は見覚えがある。K子も私を見てすぐ気づき、笑顔で再会を喜んだ。

高校時代、漫画やアニメの趣味が合って、よく知識比べのクイズを出し合ったり、クラスが別になっても廊下でじゃれ合ったりしていた。高校3年になると私は受験勉強を始めていたが、K子は一向に勉強するそぶりもなく遊びほ

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公園の赤い木の実

公園の赤い木の実

 僕らがよく遊んだ公園は2つあって、片方は砂場やブランコやすべり台があった。もう片方は真っ平らな空間の端に鉄棒と木があるだけ。小学2年生ころまでは砂場やブランコで遊んでいたけど、だんだんサッカーや縄飛びに凝っていって真っ平らな公園に行くことが増えていった。

 真っ平らな公園に生えてる木がなんの木か、同級生も兄も誰も知らなかったけど、夏も冬もいつも葉っぱが青々と生えていた。小学校低学年では登れなか

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