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公園の赤い木の実

 僕らがよく遊んだ公園は2つあって、片方は砂場やブランコやすべり台があった。もう片方は真っ平らな空間の端に鉄棒と木があるだけ。小学2年生ころまでは砂場やブランコで遊んでいたけど、だんだんサッカーや縄飛びに凝っていって真っ平らな公園に行くことが増えていった。

 真っ平らな公園に生えてる木がなんの木か、同級生も兄も誰も知らなかったけど、夏も冬もいつも葉っぱが青々と生えていた。小学校低学年では登れなかった公園の木も、3~4年生になると枝に手が届く。僕らはボール遊びに飽きたら木に登って過ごした。

 ある年の夏、いつものように同級生と木に登っているといつもと違う事に気づいた。今まで何年もただ葉っぱが生えているだけだったのに、よく見るとつま先ほどの小さな赤い実がなっている。僕らは顔を見合わせて、慎重に実を取り、口に入れた。歯の間でつぶれた瞬間、ほのかな酸っぱさと初めて感じる青い香りが広がる。僕らは悪いことをしている背徳感を感じながら赤い木の実を食べ続けた。

 また来年も木の実を食べよう。それから公園の脇を通るたびに木が気になっていたが、その年の秋には公園に立ち入り禁止のロープがあった。年明けには木が切られ、工事が始まり、公園の跡地には今も老人ホームが乗っかっている。

 僕らは行く場所がなくなり、なんとなくテレビゲームをする機会が増え、公園も木の実も思い出すこともなくなった。でも時々どこかから青い香りが風にのってきた瞬間だけ、ふとあの公園を思い出す。

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