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宇宙から見た安全保障2

前回の続きで、主に湾岸戦争以降に注目が高まった人工衛星の脅威についてです。

湾岸戦争を1つのきっかけとして、人工衛星からの情報戦が強化されます。そしてこれは米国だけではなく、他の国にとっても同じです。

人工衛星の役割について軍民用途を問わずに分類すると、主には下記の通りです。

偵察衛星:地球上を撮影
測位衛星:地球上の位置を知らせる。GPSが代表例。
早期警戒衛星:弾道ミサイル発射などを即時探知して通知を行う衛星。Jアラートが代表例。
通信衛星:地上へ通信機能を提供する衛星。Starlinkが代表例。
気象衛星:雲など天候の状態を知らせる衛星。天気予報が代表例だが、軍事用途にも使われる。

20世紀末以降、人工衛星の軍事的な意義は高まっていきますが、従来の兵器と異なる点がいくつかあります。

1.デュアルユース問題
戦争においては、軍事的行為に関与しない民間人及び民間施設への攻撃はジュネーブ条約等で禁止されています。

ただ、気象衛星の最後に「軍事用途にも」と添えたとおり、どの衛星タイプも軍事への転用は可能でそれらを厳密に分けることは一般的に困難です。(よく「デュアルユース」と呼ばれます)

前回にも解説した米国が配備したGPSは、1990年代から民間向けにも開放され、今では日本含む他の主要国でも独自のGPSを打ち上げて多くの産業で活用されています。中でも中国の勢いは群を抜いています。

デュアルユースとみなされると、たとえ一見産業向けにのみ活用されていても攻撃されるリスクがあります。

2.宇宙デブリ問題
人工衛星の軍事利用を背景に、それを攻撃する兵器も既に登場しています。
一般的には、ASAT(anti-satellite:対衛星攻撃兵器)と呼ばれます。

おそらくイメージしやすいのは、物理的な攻撃で衛星そのものを破壊することだと思います。

米国とロシアは、1950年からASATの基礎研究をはじめ、60年〰70年代に実際に衛星破壊実験を行ったとされています。

ただ、冷戦緩和も受けてしばらくは実験は行われていなかったのですが、2007年にその沈黙が新興宇宙大国に破られます。

中国です。新興と書きましたが、歴史的には古くから注力しており、過去にもその経緯は軽く触れました。既にロケット打ち上げ回数では2021年に世界一位になり、上記の通り独自GPS衛星の数でも一位となりました。

その中国が、2007年にASATの実験に踏み切ったのですが、その結果として宇宙デブリ(ごみ)が大量発生することになります。

宇宙デブリはすでに深刻な問題になっており、過去にもその経緯について触れました。

中国の実験後にロシアも同じような実験を行うことで、デブリが急増します。下図に、過去の時系列推移を載せておきます。

出所:JAXA「スペースデブリに関する最近の状況」

この表を見ればわかるように、非連続で急増しています。さらに厄介なのは玉突き事故による影響が予測できず、よく「ケスラーシンドローム」と呼ばれます。ようは、何が起こるか分からないということで、自国の首を絞めるリスクもあるということです。

以前にも紹介した映画「ノーグラビティ」もまさにそれを扱ったものです。

上記のASAT実験以降は、公開情報を見る限り大規模な実験は見かけません。

その代わり、宇宙デブリを起こさない別の方法が模索されています。

その代表例が「サイバー攻撃」です。次回はその切り口で触れてみたいと思います。




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