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ゼロからはじめるコロナ禍での消費者理解とマーケティング仮説思考|超入門

▎自己紹介

マクロミルでマーケティング・リサーチャーをしている出下浩司(イデシタコウジ)と申します。

事業会社から広告代理店・プラットフォーマーなどのマーケティング施策・戦略立案、広告効果測定などを、サーベイ(リサーチ)とデジタル・購買データなどあらゆるデータをもとに意思決定をサポートするパートナーとして仕事をしていると同時にデジタル中心にプロダクト開発の両輪で仕事をしています。

▎今回お話するコンテンツ

コロナ終息が見えない中、企業は新たに生まれている消費行動の変化や、背景にある新たなニーズ、課題へアプローチできる商品やサービスを企画・提案していかなければならない局面にあります。

まさにマーケターの方々は、その力量が試される試練の時期かと思います。

マーケティング施策に活かして頂くため、コロナ第 1 波の変化をテーマに、マクロミルが保有するあらゆるデータソースから僕が分析レポートし6月に第1回目のオンラインセミナーに登壇。
約1000名のマーケターやプロダクト開発担当、コミュニケーション戦略立案を行う方々に参加頂きました。

数カ月経ち、コロナが2次的に変化している今、最もコロナの影響を受ける『食品・飲料・耐久消費財といったFMCG領域』にフォーカス。

消費購買における「意識・行動」変化を、僕がレポート分析しスピーカーとして登壇を担当した第2回目のオンラインセミナーでお話をした内容でした。
ゲストスピーカーとして、元アクセンチュア・P&Gを経て、現在株式会社ホジョセンの代表・高橋さんにご登壇いただきました。

ここではそこでディスカッションした内容に手を加えて私見も交えお話し
していこうと思います。

セミナーでは約500名に参加頂き、それだけコロナでのマーケティング戦略を立案していく関心の高さと難しさがうかがえました 。

▎この記事のターゲット

コロナ禍でどのようにマーケティング活動やコミュニケーション施策を立案していけばいいのか、意思決定をするに際して肌感覚ではわかっていてもデータで理解したい、どのように変化しているのか知りたいといったマーケティングに携わる方すべてが対象になります。

またマーケに限らずFMCG領域で仕事をしている方、それに関わるWebマーケターやセールス、ビジネスパーソンに向けて執筆した無料noteです。

以下の意識をお持ちのビジネスパーソンには有益な情報かと思います。

▎コロナで消費者の購買行動は変化したはずだが実態が把握出来てない
▎ニューノーマル前提にマーケ施策を立案したい
▎コロナ収束が不透明な中施策を考える必要がある


意識と行動データで読み解く
コロナにおける生活者変化とは?

追うべきは、時代ではなく顧客心理の変化

元P&Gで日本のトップマーケターである、現ファミリーマートCMO足立光さんとStrategy Partners代表取締役、M-Force共同創業者である西口一希さんの著書、「アフターコロナのマーケティング戦略 最重要ポイント40」を先日拝読いたしました。

そこで語られている部分で、「追うべきは、時代ではなく顧客心理の変化」という、消費者心理に基づいたベーシックな事ではありますが重要な発想をされていることにとても共感しました。

このnoteでも顧客心理の変化を読み解いていこうと思います。

コロナは消費者を動かすコミュニケーション設計の難易度を引き上げた

経済活動再開と共にコロナ感染者が急増した第2波が起こり、改めてコロナによって人々の意識は変化した、と口々に言います。

では具体的にどのように変化していっているか、この「変化した」という事象に対してデータで見ていきたいと思います。

現在第3波として改めて行動自粛が叫ばれている中、感染者の増加によって日々コロナへの不安が増すばかりです。

感覚としては「怖い」「人にうつしたくない」「いつまで続くのか」といった意識が根付いたのは言うまでもないですが、コロナによって人々の中で具体的にどのような意識変化が起こっているのでしょうか。

「コロナへの漠然とした不安」というのは、男性よりも女性、女性の中でも特に高齢層で強く抱くこと、またコロナへの不安が大きい方は生活上の不安・悩み(雇用や今後の収入の見通しなど)がより強く影響することが自社の意識データからわかっています。

その視点を踏まえ以下は、コロナによって今現在人々の気分や心持ちはどの方向に向いているのか、サーベイで聴取したレポート結果から一部抜粋をしたデータです。(図:ウェビナー提示資料)

▎コロナで生活への先行きは不安だが、その中でもコロナに向き合う「順応・生活様式変化への受け入れ姿勢」を示している

▎ただ閉塞感が継続し、生活の充実感は乏しく、不自由さを感じる「ストレス」は高く、特に「憂鬱・無力感」が色濃く表れており、男性よりも女性で、中でも20代以下の若年層で精神的影響が大きい

このデータからこう解釈ができるかと思います。

こういった心理状態で企業側は消費者とどのようにコミュニケーションをとっていけばいいのか、とても難しい状況に直面しています。

ここで、データ解釈を受け、ゲストスピーカーの高橋さんからもご意見を伺いました。

コロナにおけるコミュニケーションへの影響は世界各国で色々な研究がされています。
例えば有名どころで言うと、イギリス・ロンドンにある広告研究所でも研究を行っていて「コロナによって人々は社会から孤立した」と言われています。

恐れだったり、不安だったりを抱いていて、まさにここで示したデータと同じようなデータが提示されています。

それによって関係性や繋がり、共感といったものを人々が求めるようになってきている、という流れがあったうえで、例えばですが、懐かしさだったり、ユーモアだったり、といったものを感じさせる広告のほうがより消費者を動かす、という研究結果があります。

同様の議論は日本でもありますが、それをそのまま実行するのではなく、こういった社会的文脈の中で各ブランドはどう振る舞うべきなのかを考えていくことが重要であると考えます。

そういった意味でコミュニケーション設計の難易度が少し上がってきているのではないでしょうか。

ブランドごとにコミュニケーションをとっていく施策は異なるわけですが、例えば懐かしさというキーワードが出ました。

「懐かしさ」というのは歴史のあるブランドしか提供できないのか
、というとそういうわけではないと思います。

「懐かしさ」は最新の商品であっても、例えば自分の子ども時代を思い浮かべるようなコミュニケーションをすることで新しくても懐かしさを感じることはできるかもしれません。

どういった形でそういった感情を抱かせることができるのか、各ブランドが持っている特徴によって変わってくるとは思うので考えなければいけないのですが、もっと言えば「なぜ懐かしさを求めているのだろうか」ということでしょうか。

僕のほうでも色々と調べてみましたが、心理学のある研究によると、人間が懐かしさを感じやすいのは少しネガティブな気分のときで、懐かしさを感じた後は逆に少しポジティブな気分に変わることがわかっています。

また、懐かしいと感じるときは、他の人に支えられているという「社会的つながり」を感じる度合いが高くなるという結果もあります。

つまり、懐かしさには気分をうまく調節したり、人との絆を深めたりする役割があります。

そういった意味で、現在ファミリーマートが香取慎吾さんを広告塔に展開している「お母さん食堂」はコロナの時代に合った素晴らしい施策だと思っています。

ジェンダーに関してアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を助長しかねないとネットでは色々と議論があるようです。

僕個人としてはこれは偏見や差別だとは全く思っていなくて、このコロナ禍の中、年末年始・お正月を実家で過ごすことを我慢している方にとっては、お母さんの味・おふくろの味を想起させる、インサイトをしっかりと捉えた、とても良い施策だと思います。

お母さんという、お父さんでは提供できない情緒価値は人間の心理の奥底に存在していて、母性の象徴・どこか心が温かくなる・落ち着く・包み込まれるような印象を受けます。

そこから来る心の繋がりによって孤独を感じない優しさが頭に浮かびます。

ファミリーマートもその点抜かりがなく、香取慎吾さんがお母さんを演じている点(慎吾ママのキャラクター)は「性による役割固定」といった問題においてかなり配慮しているのではないか、と感じます。

話が逸れましたが、自分たちのプロダクトで提供できる価値と社会的文脈をどう結び付けていくのか、これは各ブランドの立ち位置や、各ブランドが目指すところによって大きく変わってくると思いますが、このような解釈をしたうえで、自社では何が提供できるんだろうか、ということを仮説立てしてリサーチで検証していく、というやり方もあるのではないでしょうか 。

大容量化・購入量購買へシフトしメジャーブランドが圧倒的に優位な環境へ

以下のデータは、コロナ発生前後で消費者の購買行動がどのように変化したのかをサーベイで聴取した結果です。(図:ウェビナー提示資料)

▎大容量やまとめ買いといった1回あたり購入量増加
▎事前の指名商品買い増加
▎ストックする行動増加

つまり、店頭での「大容量買い・購入量増加=ブランド指名買い」意識が高まっている可能性が高いことが考えられます。

また、以下はFMCG商材の1回あたり購買量の変化を示したデータです。(図:ウェビナー提示資料)

化粧品・ファッションを除き、いずれも1回あたりの購入量がかなり増加しているのがみてとれます。

データを見て「大容量化・1回あたり購入量増加」が起きている、とは具体的にどういうことか。

こちら のデータを見て、高橋さんが一般論と前提立てをしたうえで、とてもロジックを立てて示唆を出していただきました。

大容量化・1回あたり購入量増加が進んでいることが示唆するのは、一般的に考えれば購入回数が減る(お店に行く回数が減る)ということです。

これは、メジャーブランドに圧倒的に優位な状況が作られている事を意味します。

スモールブランドにとっては不利、メジャーブランドにとっては圧倒的に有利な状況が作られていくわけです。
買いに行く回数が減る=買ってもらうチャンスが減るということから生み出される状況です。

分かりづらいと思いますので、サイコロを使って考えましょう。
サイコロを振って1が出た時に自分たちのブランドが買ってもらえるとします。10回振ってくれたら1回ぐらい1の目が出るかもしれないが、買い物の回数が減るということはサイコロを振る回数が10回から3回になっている。
なので、買われる可能性が高いブランドというのはより買われやすくなります

一方で買われる可能性が低いブランドというのは今まで何回も購入してくれている中の1回をとってきていたのですが、買ってもらえるチャンスが減ると、短期的には「ゼロ」になりかねないですよね。

この観点で考えると、購入回数が減る、ということはスモールブランドにとっては非常にきつい環境にあります。

当然出る質問として、ではどうやって買われる確率を高めていくんですか、という議論になってきます。

P&Gでも重要視される想起集合(Evoked Set)に入る=1番最初に思い出してもらえるブランドになること

商品が基本的に買われる確率は何で決まるのか、というと【想起集合に入るか否か】で決まります。

「ビールが飲みたい」「洗剤を買おう」などと思った時に、頭の中でイメージされるブランドの集合体のことです。

何かを「買おう」と思った時、消費者は自分の頭の中にすでにある想起集合の中から選ぶことがほとんどで、想起集合に入らないブランドは購入されにくいです。

「想起集合」は、世界のトップマーケターが集うマーケティングカンパニーであるP&Gでも、とても重要視している指標です。

買ってもらえるか、買い続けてもらえるか、の勝敗を分けるのは1番最初に思い出してもらえるポジションを獲得できているのか、にかかっています。

ブランド・カテゴライゼーション・モデル
(出典: Brisoux and Cheron(1990))

「知名段階」
最初の段階である「知名集合」ですがここでは「知っているか知らないか」で分かれます。

ここで知名集合に入らないと知らないものは検討されませんし、検討されなければ買われません。

「処理段階」
次の段階である「処理集合」ですが、ここでは「よく知っているかどうか」が大切になります。

例えば、洗剤を買おうとする時などを想像してもらうとわかりやすいかと思います。「アタック」「アリエール」「トップ」「ボールド」といったブランドがあった場合、それらの違いは何か?と聞かれ答えられるでしょうか。

もしかしたら、イメージできた人もいる一方でそれらの違いが正直わからない人もいるかもしれません。
この処理・非処理集合の違いは「よく知っているかどうか」で分かれます。

知っているがよくわからない商品・ブランドはその段階で検討には進まないのでドロップします。

「考慮段階」
そしてとても重要な「想起集合」ですが、想起集合と保留集合と拒否集合の3つに分類されます。

「想起集合」は「消費者が、所定の製品クラスにおいて認知しているブランドの集合のうち購買を考えるような下位集合」と定義されますが、要は
「買いたいと思った時に頭の中に思い浮かぶ選択肢の集まり」という感じです。

この想起集合に果たしていくつの選択肢が入るのか、様々な議論はありますし商材によっても異なると思っているのですが、個人的な感覚値として購入の選択肢に入るのはせいぜい3つぐらいじゃないかなと感じています。

「選好段階」
その上で、「第一位選択」は、想起集合の中で1番最初のポジションを獲得しているブランドのことを指します。

これ以上の想起集合(Evoked Set)の概念についての詳しい説明は、トライバルメディアハウス代表である池田さんがかなり詳しくご説明されているのでそちらをご参照ください。

購入の決め手は想起集合に入っていてかつ1番最初に思い出す第一位選択ポジションが有利になります。

高橋さんは、この上記想起集合(Evoked Set)の概念を元にお話をされている、という理解をしたのですが、想定される現状に対して、以下の示唆を示されました。

この想起集合に入るためのステップやプロセスに関しては、業界や商材によって異なるのですが、要はこのポジションをしっかりと獲得できているかがとても重要なカギを握っており、想起集合に入るということ、そして想起集合の中での存在感を高めるということが重要になって来ます。

これがまたマスブランド向けであり、このコロナ禍において、買う回数が少なくなるだけでマスブランドが有利になるのに、その中での想起集合を高めるという観点でも広告宣伝費の多いマスブランドのほうが有利になる、という状況が起こっています。

でも広告宣伝費がないFMCGのブランドは往々にして認知獲得や、消費者とのコミュニケーションを店頭の棚の前に依存してきたという背景があり、その棚の前でのコミュニケーション・機会自体がなくなっていく。

となると、棚の外でどういう風にして想起集合に入るのか、棚の外で自分たちのブランドを理解してもらうのか、広告宣伝費がない中で考えないといけません。
ある意味逆境という、そういった状況に陥りやすいマクロ環境であることは確かである、ということが言えます。

高橋さんのおっしゃっている通り、自身が消費者という視点で考えても、コロナ禍においてできるだけ店頭での滞在時間を短くし、コロナへの接触を避ける行動をしているのは事実です。

その観点から考えても、棚前での接触は確実に減少しており、新しい商品への視点というのは減少傾向にあるのはコロナに敏感な消費者にとっては、同様の行動に至っているのではないかと考えられます。

スモールブランドにはスモールブランドなりの戦い方がある

スモールブランドは必ずしも、ビッグブランドのようにTVCMのような大きな広告費を使える企業ばかりではありません。

スモールブランドにとっては、TVCM以外で、先ほど述べた想起集合に入っていくために、どのようなマーケティング施策を実施していけばいいのか、どのマーケターにとっても悩みの種であることはよく聞く話ではあります。

では、どのようなメディアで消費者にアプローチしていけばいいのか。

近年、動画市場の台頭と共にコロナにより加速している現状があります 。
以下はコロナ禍により起こった行動・増えた行動を示したデータです。(図:ウェビナー提示資料)

左側グラフの重ね横棒の濃い青色の伸びはこのコロナで新規利用が純増した割合を示しています。

動画配信サービスの伸びは市場において5%、YouTube視聴は3%の新規流入がみられます。

また右側グラフはコロナ前から各サービスを利用していた方が、このコロナで利用増となった割合を示しています。

YouTubeやSNSの利用率の奥行(既存利用者の利用加速)は5割を超え広がっており、それだけコロナにより家庭内行動の結果、そのサービスに接する機会が増えているということです。

このようなコロナによる予期せぬ環境変化ではありますが、消費者とのタッチポイントは確実に増えています。

これらデータからも、お金を使わずに想起集合に入っていく手段の一つとして「SNS」というのはとても相性は良いです。

また「動画広告」はお金がかかるケースは多々あると思いますが、マスの広告と比べると低予算からスタートできるという利点もあります。

直近ではアニメとのコラボ施策によって露出および消費者の目に留まることで売上の増加につながったというニュースも目にします。

鬼滅の刃が缶コーヒーブランドとコラボして大きく売上を伸ばしているのは典型的な事例かと思います。

短期的に稼ぐ、という意味ではとても強力なキラーコンテンツではありますがそれは一過性のものであり継続した売上維持は難しいと思います。

一方ブランディングという観点では中長期的に「独自性≠(差別化)」をしっかりと消費者に根付かせる施策をSNSや動画広告を通じて創り上げていく必要がある
と思っています。

施策やコミュニケーションの方法によってはうまく戦術をワークさせて消費者の頭に記憶として定着させていけるのではないでしょうか。

ただしこれは相当に大変なことであり、動画広告にシフトしてただ出稿すればいいという安直な施策で通じるものではありません。

その点どのようにコミュニケーションを構築していくのか綿密な施策設計と実行が求められます。

「TVCMの役割は終わった・TVCMの凋落」は本当か

2019年、ネット広告がテレビメディア広告を上回るというデータが出ました。(電通「2019年 日本の広告費」インターネット広告費が初の2兆円超えでテレビを逆転)

一般的に「TVCMの役割は終わった」「TVCMの凋落」という議論はよく目につきます。
冒頭に述べた、「アフターコロナのマーケティング戦略」の書籍の中でも触れられている議題でした。
今賑わっているD2C(direct to consumer)のようなブランドはデジタルを中心に活躍している場合が多いので、デジタル広告に光が当たるケースや傾向は確かにあります 。

資生堂は2020年8月に、より一層のデジタルシフトを推進していくと表明して、マーケティングにおいては2023年までに広告媒体費の90%以上をデジタルにシフトすることを決算説明資料(2020年第2四半期/上期実績および通期見通しより)で明らかにしました。
が、これは資生堂というビッグブランドだから成せる戦略だと個人的に思っています。

高橋さんも、ウェビナー内で同様のご意見が出ました。
以下ウェビナー内でお話をした内容です。

比較的小さめのブランドに関してデジタル・および動画はすごく重要かつ貴重な媒体になるだろうな、と思う一方で、TVCMのインパクトはこのコロナにおいてもまだまあまあ強いのではないかと思います。

ですので、SNS・デジタル・動画が安易に万能という価値観・考え方は危ない、という議論もあると思っています。

自社のブランドがマスのブランド、とにかく大量に人に買ってもらわないといけないようなブランドの場合は動画サービスよりもTVCMのマスメディアのほうが効果・効率という意味では良いのではないかと思います。

一方で、スモールなブランドに関しては動画やデジタルが使えるようになったこと自体、それだけで強みですし、しかもそれを使う人が増えた、視聴時間が長くなった、ということはリーチできる可能性が高くなったと言えます。

しかし、ただ盲目的に動画やSNSといったデジタルにそのままシフトすればいい、そのコミュニケーションを安易に実行すればいいか、というとそういうことではありません。

自社ブランドにとって動画やSNSはどういう位置づけなんだろう、ということをしっかりと綿密に考え実行していくべき、ということがこのコロナでの変化がまさに起こった時代だけに特に重要になっていくと考えています。

デジタル動画自体、CVR・CTR等の各種KPIで施策効果検証という観点では観測しやすいものであることは確かですが、果たしてTVCMのような消費者の記憶の中にどこまで残るのか、という観点では検証が必要な側面も持ち合わせていると思っています。

ここがデジタルでどのように想起集合に入る施策を打てるのか、というマーケターの腕の見せ所なのかもしれません。

こういった視点を検証する意味でも、クロスデバイスマッチング技術を用いた広告IDや、タグの埋め込みによるログ計測で接触した人をサーベイでしっかりと検証していくことも必要だと思います。

コロナ禍で人をクラスターに分けて施策を考えてみる

マーケティング施策を実行していくにあたり、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)をしっかりと定め特定の層に対してコミュニケーションをとっていくことは当たり前ですが、人を分ける方法はいくつかあります。

地理的変数(ジオグラフィック)
 国・地域市町村・気候など
人口動態変数(デモグラフィック)
 年齢・性別・職業・ライフステージなど
社会的心理的変数(サイコグラフィック)
 ライフスタイル・志向・価値観など
行動変数
 商品の購買状況・ベネフィット・ロイヤルテイなど

このコロナ禍で人々の価値観がどのように変化していっているのか、を明確に人を分けて分類できている事例はあまり多くありません。

オンラインセミナーで少しお話ししましたが、まずは人を分けるというファーストステップでどのセグメントにアプローチすればいいのか、コロナと関連付けて考えていくことはとても重要だと思います。

マーケターや商品開発、広告代理店のストプラからこのコロナ時代の消費者像を明らかにしたいというニーズに答えるため、マクロミルでは「生活の質」「消費価値」「生活態度」の3つの軸をもとに消費者を6つに分類する消費者セグメントというものを開発しました。(図:With COVID-19 Segment)

弊社が保有する130万人の消費者パネルから、実際の購買データやアクセスログデータなどを用いて、「行動」「意識」に表れる違いについて検証を重ねることで、独自に開発しました。

このようにコロナで先行きが不透明な中どのような価値観が存在し、その中でどのクラスターに自社商品がマッチしており、どういったアプローチをすればいいのか、という仮説の起点を作れるものです。

こちらはサーベイを実施される顧客データ内で再現ができます。
取得した調査データは、弊社が保有する購買データやアクセスログデータ等の様々なデータと掛け合わせて企業のマーケティング課題に沿った多様な視点から分析することが可能となります。

例えばコンセプト開発から4Pの開発・策定、上市後の検証・改善など、様々なマーケティングフェーズにおいて活用できます。

こういったデータを活用し、マーケティング施策の起点を作っていく、ということ、それに対して仮説を立てながら検証して、なるべく施策の成功確率を上げていく、というアプローチもあるのではないでしょうか。

どうしてもマーケターや商品開発担当の方、コミュニケーション設計する方は、自身の領域や商品にフォーカスしたセグメントをしがちです。

それはそれでいいのですが、消費者のインサイトは実際は表面化しておらず潜在意識に留まったままです。

自社商品のみに視野を狭めてしまうと、新たな発見をするのはとても困難で、デプスインタビュー(1on1の定性調査 ※ODI(オンラインデプスインタビュー)やDI(デプスインタビュー))をしたとしても、どうしてもConverge(物事を収束に持っていく)してしまいがちです。

ですが自社商品領域に限らず、消費者の意識にアクセスするためには、一度Diverge(広い視野ですそ野を広げる)することで真に消費者が何に対して未充足で不満を潜在的に抱えていて何を解決してほしいのか、という視点で物事を見ると、また違った価値観やニーズが見えてくるものです。

そういった観点で消費者を捉えることも必要だと考えています。

コロナで購買が増加したカテゴリが、なぜ増加しているのかを仮説立てする

最後になりますが、ウェビナーの中では多くの事象・ケーススタディに対しあらゆるデータを出しながらディスカッションや仮説出しして進めました。

以下データは一例として加工食品の購買がコロナでどのように変化をしたのかを、購買データから示したものになります。(図:ウェビナー提示資料)

見ていただくと、季節性にとらわれないよう、コロナ第2波と重なる20年8月と前年同月比で加工食品の各カテゴリがどれぐらい売り上げを伸ばしているのか、または減らしているのか、が確認できます。

データの解釈としては「加工食品」のカテゴリの中でも特に「冷凍食品」で、100人あたり購入額の伸びが確認できます。

さらにブレイクダウンして内訳を見ていくと、新規購入者が流入したのか、それとも購入者の購入買い増し・増加があったのかでは、間口(購入率)と奥行(購入者あたり金額)共に増加しています。

伸びた背景としてはWFH(Work From Home)により家庭内でのお昼などの食事機会の増加により、購買が伸びたと考えられます。

これを見てただ単純に「そうかそうか、だから何?」で終わる方もいらっしゃるかもしれません。

ここが思考の分岐点になっていると思います。

ウェビナーで高橋さんから、提示したデータを解釈したうえで、どのような視点で仮説を構築すればいいのか、という観点をお話しいただきました。

大切な事は「なぜ冷凍食品だけこの勢いで伸びを示しているのだろうか、なぜパン・シリアル類や総菜類、麺類でもなく、冷凍食品でこの高い伸びを示しているのか、冷凍食品以外で代替できるものはないのか。
そこに新しいヒントや参入機会やコミュニケーションの打ち出し方があるのではないか、突破口があるのではないか」といったような仮説を持つことです。

どういった視点で物事を見ればいいのか、その上で施策を考えて行けばいいのか、そういったヒントやチャンスが存在しているのではないか、ということが高橋さんのお話からも考えさせされる点ではないでしょうか。

このように一つの事象・事実に対して、

■ その裏にある消費者メカニズムの理解をする
■ データ解釈から仮説構築を行う
■ 出した仮説を検証していくステップを踏む
■ そこから新たに出た仮説や疑問点を検証していく

思考を持ち、できるだけ精度を上げていくことが重要であり、精度を上げたうえで打ち手を実行していくべきではないでしょうか。

そうでないと「やっただけ・結果がついてこない」という最悪の結果が待ち構えている可能性がこのコロナ環境では起きやすいと思います。

仮説は間違っていてもいいのです。
大切なのはまず仮説を持つこと、そのうえで検証して仮説が間違っていれば軌道修正しながらより精度の高いものへと昇華し、成功確率を上げていく、というのがマーケターの努め
だと思っています。

そういった意味で、データを基に戦略立案・施策立案を行うパートナーとして試行錯誤し泥臭いことを一緒にやっていければと思っています。

最後に

だらだらと書き連ねてまいりましたが、このnoteではアンケートデータや購買データなどのファクトからどのようにデータを解釈し、そこからどう仮説を構築し、その仮説を元に示唆出しをして施策へと導いていくのかという視点や考え方の元となる発想が少しでも伝わればいいなと思っております。

まだお伝えしたい事はありますが、今回はこの辺で終わりたいと思います。

最後に、僕が最近見たnoteでとても共感を覚えた記事がありますので、以下紹介して終わりたいと思います。

ニュージーランド航空やユニリーバ、アウディ、ヤフーを経て現在通信会社のマーケターでご活躍されている井上大輔さんのnoteで「仮説」がいかに大切か、ということを「ないのはデータじゃない。仮説なんです。」という記事で書かれているものです。

仮説がない状態でデータの森に飛び込むと迷子になる、これはデータを生業にしている方からすると痛いほどわかる言葉です。

これはご依頼頂くクライアント担当者の方でもよくあることで、仮説なしのリサーチやデータ分析というのは本当に実際にあります。

ぜひ仮説を出す、とはいったいどういうことかを理解できるので読んでみてはいかがでしょうか。

僕が分析・登壇したコロナをデータから読み解く消費者心理の変化とは?については、マクロミル公式noteに投稿されているのでご覧いただければと思います。

今回ご一緒したホジョセンさんは、マクロミルのパートナーとしてクライアントのマーケティングに伴走する戦略コンサルティングを行う会社です。
代表を務める高橋さんはじめ優秀なメンバーが在籍していて、メルマガもとても勉強になりますので参考までに。

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