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ワン・ビン『青春』中国、縫製工場の若者たちの生活

2023年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ワン・ビンとは非常に相性が悪く、どの作品もだいたい開始10分くらいで寝ちゃって全戦全敗中なので、可能ならばエンカウントしなくない作家の一人だったのだが、コンペに選ばれたからには向き合ってみる。本作品の上映時間は3時間半もあるが、ワン・ビンの中では中ボス程度の長さである。というのは、本作品は同じ登場人物を長期間に渡って追った三部作の第一部に相当するからのようだ。三部作全体は9時間40分を予定しているらしく、恐らくはカンヌ映画祭までに編集が間に合わなかったのだろう。上映後のQ&Aでは、2024年1月には第二部第三部の編集が終わると言っていた。急速な経済発展の震源地となった長江デルタから遡上していくらしい。どうせならザイドルやキェシロフスキのように三部作で三大映画祭制覇してほしい気持ちもある。ちなみに、撮影素材は全部合わせて『鉄西区』(300時間)の9倍近い2600時間だったらしい。本作品は2014年から2019年にかけて、中国浙江省湖州市の一地区である織里鎮の町で撮影された。この場所は2016年の『苦い銭』、2017年の『15 Hours』と同じ撮影場所らしいが、焦点の当たる人は全く異なっている。色々な若者が名前と出身地と年齢付きで紹介されるが、人物把握に難のある私としては全く追いきれなかった。ただ、個人を追うというよりも若者たちの生活を一般化するという意味で大量の視点人物が存在していたので、まぁ別に判別は出来なくても問題ないのかもしれない。どの時間を切り取っても、痴話喧嘩、女子といちゃつく、妊娠と結婚と堕胎に悩む、仕事のスピード勝負するなどと、人や所属工場が変わっても似たようなことで悩んでいるんだなと。どの工場も冷暖房がないのか、アウター着て仕事してたのも強烈だし、シュレッダーにクズ紙入れるくらいのスピードで服縫ってるのも凄かった。失敗せんのかな?と思ったら失敗してる人もいた。また、中盤からはどの工場でも賃上げ交渉がスタートする。ある工場では学のない若者を"計算してみろ!"と言いくるめていたり、別の工場では従業員が力押ししていたりと様々だ。それも反復の中に組み込まれている。全体的に"なるほど"とは思うし、彼らの終わらない労働と212分のクソ長い上映時間はリンクしているとは思うが(その点でラドゥ・ジュデ『世界の終わりにはあまり期待しないで』に似ているのかもしれない)、この内容をせめて140分に出来ないのは問題だろ。長げえよ。

コロナ禍以前の撮影ということで、コロナ以後の工場はどうなったか質問してみたが、全く知らんとのこと。あんだけ長江デルタは経済成長に重要な場所だったとか言っといて、結構そっけない答えに感じた。今はフランスにいて中国には中々戻れないらしい(確かに中国映画でお馴染みの"金龍"が出てこなかった)が、それも影響しているのかもしれない。という話をワン・ビン好きの友人にしたところ、そういうことが気になるならワン・ビンに向いてないと言われた。同意します。

・作品データ

原題:青春
上映時間:212分
監督:Wang Bing
製作:2023年(フランス, ルクセンブルク, オランダ)

・評価:60点

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