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ジョルジョ・ディリッティ『ルボ』子供たちを探す父親の20年

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。ジョルジョ・ディリッティ長編五作目。1939年スイス、家族で大道芸人をしながら国中を渡り歩くイェニッシュの家長であるルボは、いきなり道端で呼び止められて徴兵される。そして、嫌々ながら国境を警備していたある日、再教育という名目で子供たちが連れ去られ、妻が殺されたことを知る。ルボは怪しげな密輸業者の男ライターを殺害してなりすまし、子供たちの行方を追っていく…のだが、いくら大道芸人だからっていきなり素人が山道を運転できるようになったり、上流階級マダムを騙して不倫できるほどの上品さを出せたりするもんなのだろうか?他のイェニッシュたちへのインタビュー中に登場した占い師に"全ての女の中にいる彼女(=亡妻)を愛せ、彼女(=亡妻)の中にいる全ての女を愛せ"と言われてから、彼は豹変したようにマダムたちに手を出すわけだが、確かに女たちにも問題はあれど(ある女は善意のうちに優生思想を信じ、別の女は無知で無個性で旦那の飾り物のようだ)、ここで描くべき問題なのだろうか?子供を国家に誘拐された父親が必ずしも善人であるわけでも、その必要があるわけでもないのだが、中盤でそのテーマから離れ続け、戻ってきた頃には中心人物たちの存在感が完全に失われているのは、テーマそのものの重みが薄まってしまい、散漫な印象を受けるのみだった。子供が巨大権力に誘拐されるという題材はマルコ・ベロッキオ『エドガルド・モルターラ』、主人公が詐欺師として別の高位のコミュニティに溶け込んでいくのはジャック・オーディアール『つつましき詐欺師』にも似ていたが、本当に単にこれらの作品を貼り合わせただけという印象。テーマを絞って2時間以内にしていたらもっとフランツ・ロゴフスキを活かせてたと思う。残念。

・作品データ

原題:Lubo
上映時間:175分
監督:Giorgio Diritti
製作:2023年(イタリア, スイス)

・評価:40点

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