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ニコライ・アーセル『The Promised Land』マッツ・ミケルセン、不毛の大地でジャガイモを育てる

2023年ヴェネツィア映画祭コンペ部門選出作品。2024年アカデミー国際長編映画賞デンマーク代表。ニコライ・アーセル長編六作目。まさかのジャガイモ映画。18世紀デンマーク、ユトランドの不毛地帯の開拓を進めようとして幾度となく失敗してきた時代に、貧しい退役軍人ルドヴィクはたった一人で開拓を始める。すると、ここらの土地を独占しようと目論む地方領事の男シンケルが、ルドヴィクの土地は自分のものだと言い張って度々邪魔を仕掛けてくる。とはいえ、パパの土地を継いだだけのバカ息子なので特に人望もなく、イキってるだけのしょうもない小悪党という印象(シンケルの前に"de"を付けろ!と言い続ける小物感良き)。労働者を引っこ抜いたりルドヴィクが匿っていた逃亡農奴を彼の目の前で殺したりと嫌がらせを続けるバカ息子くんだが、ルドヴィクがジャガイモを育てるのはなぜか妨害せず放置。そして気付けば1年で80袋も収穫され、王様も大喜びで第二陣を派遣し、バカ息子くんは自分の立場が危うくなるという危機的ピンチに。人生はカオスや!とするバカ息子くんと、人生は秩序や!として法律やジャガイモを盲信するルドヴィクという対比は興味深いのだが、全体的に単純というか記号的すぎて深みがない。マッツ・ミケルセンは『バトル・オブ・ライジング コールハースの戦い』でも似たような、貴族に目を付けられて反抗する平民の役を演じていたが、あまりにも似ているので途中からダブって見えてしまった。というか、対人間の戦いに主眼を置いているので、過去何十年も開拓に失敗しているというのがよく分からず、バカ息子一家が代々邪魔してきたから失敗したのでは?と思えるほどに、自然の恐ろしさみたいなものは感じられなかった。ただ、ルドヴィクに匿われた農奴の妻で、後に彼と共犯とも似た関係を築くアンナ・バーバラの挿話は良かった。作中ほぼ唯一深みのある人間だった。

・作品データ

原題:Bastarden
上映時間:127分
監督:Nikolaj Arcel
製作:2023年(デンマーク, ノルウェー, スウェーデン)

・評価:50点

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