橘しのぶ

第四詩集『水栽培の猫』思潮社。第三詩集『道草』第19回日本詩歌句随筆大賞奨励賞受賞。2…

橘しのぶ

第四詩集『水栽培の猫』思潮社。第三詩集『道草』第19回日本詩歌句随筆大賞奨励賞受賞。2024年『詩と思想』現代詩の新鋭。書評委員。第3回サンリオ「いちごえほん」童話部門グランプリ受賞、2004年度「詩学」新人。第8回、9回、15回アンデルセンメルヘン大賞入賞。

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記事一覧

オリジナルスパイス

 立原えりか先生の童話教室に通っていた頃、拙作について、先生から「貴女はメインディッシュは作れない人。そのかわり誰よりも素敵なデザートを作るわ。メインディッシュ…

橘しのぶ
2分前

あおい満月 「月のなかの鳥」

詩誌「びーぐる」38号(2018年1月20日発行)を拝受したので、ぱらぱら捲っていて、投稿欄巻頭詩、あおい満月さんの「月のなかの鳥」に出くわした。まさしく、出くわした、と…

橘しのぶ
22時間前
22

左川ちかの詩「緑」

 『交野が原』96を拝受した。こちらは、編集発行人の金堀則夫さんが主宰する個人誌である。1976年創刊、今年で48歳にふさわしく、内容も充実。詩、評論、書評など、46人の…

橘しのぶ
2日前
20

思い出に逢いたい

 10年ほど前、シャンソンを習っていた。その時、発表会のために書いた歌詞に、先生が曲をつけてくださった。6月に始まり6月に終わった私の恋の歌。 思い出に逢いたい  …

橘しのぶ
3日前
25

杉本真維子さんの投稿詩

 23年前、「現代詩手帖」2001年4月号に詩を寄稿させて頂いた(『ポーズ』、第三詩集『道草』所収)。懐かしくて、なんとなくページをめくっていると、投稿欄になんと、杉本…

橘しのぶ
4日前
24

中宮定子という人

 5月26日に放送されたNHK大河ドラマ「光る君へ」で、定子が突然、落飾した。兄弟が謀反を起こして流罪が決まったからといって、お腹に子供を宿しながら出家するのはどうか…

橘しのぶ
4日前
25

多年草式株式投資

 15年以上株式投資をしている。はじめのうちは大きな損もしたが、反省し自分のスタイルを確立することで、10年目位から利益を出せるようになった。  私は、株式投資を、1…

橘しのぶ
6日前
29

潮騒

 昨年、高校の同級生のKさんから連絡があり、夕食を共にした。彼女にに会うのは40年ぶり。彼女は現在、関東地方在住だが、小学生の頃は私が今住んでいる広島市の井口地区…

橘しのぶ
7日前
33

柏原康弘詩集『詩の故郷吉備スケッチ帳』

 先日、岡山の後楽園で行われた市の朗読会でお知り合いになった柏原康弘さんから第三詩集『詩の故郷吉備スケッチ帳』をご恵贈頂いた。「牛窓」「備中高梁」「中洲の里」と…

橘しのぶ
8日前
17

依田義丸詩集『連禱』 

 依田義丸さんの奥様、依田真奈美さんから詩集『連禱』をご恵贈頂いた。闘病中でいらした依田さんは、詩集を纏め了えたものの、完成前の3月14日に帰らぬ人となられた。ど…

橘しのぶ
8日前
17

こいこい

 一昨日の夜、飼い猫に小指を噛まれた。大した事ではないと思い、消毒してそのまま寝たのだが、朝目を覚ましたら、手全体がパンパンに腫れていて驚いた。朝と夕、病院で点…

橘しのぶ
10日前
29

風通しの佳い抒情

 木村恭子さんから、個人詩誌「くり屋」103号をいただいた。ゲスト詩人に山口美沙子さんをお招きして、4作品を掲載。 山口美沙子 大いなるもの 木村恭子  窓(20) …

橘しのぶ
11日前
29

一人歩き

 先日、詩人のNさんからお電話をいただいた。 「詩集、出版おめでとうございます。これから、貴女の手を離れて、貴女の詩集は一人歩きするのよ」とおっしゃった。私はNさ…

橘しのぶ
12日前
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夕顔異聞 

半蔀を覗き込みたり時鳥 花氷名も知らぬひとに恋をして 夕顔の花の吐息にうつむけり やごとなきひとと知らるる薫衣香 昼花火恋のレンタルありますか 夏襲かくせし指の繊き…

橘しのぶ
13日前
26

本歌取り

 私の筆名は、『和泉式部日記』から戴いた。亡き恋人為尊親王の弟、敦道親王より橘の花を贈られた和泉式部は、「昔の人の」と思わずつぶやき、 薫る香によそふるよりはほ…

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2週間前
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ひとりでさびし

ひとりでさびし ふたりでまいりましょう  みわたすかぎり  よめなにたんぽ いもとのすきな むらさきすみれ なのはなさいた やさしいちょうちょ  ここのつこめや   …

橘しのぶ
2週間前
27
オリジナルスパイス

オリジナルスパイス

 立原えりか先生の童話教室に通っていた頃、拙作について、先生から「貴女はメインディッシュは作れない人。そのかわり誰よりも素敵なデザートを作るわ。メインディッシュがいくら美味しくても、デザートがつまらなければ、そのコースは台無しなの。自信を持って書きなさい」と言われた。たしかに、大庭園ではなく箱庭のような、宮殿ではなく人形の家のような世界が、私は好きだ。
 詩作にも同じことが言える。一介の主婦でしか

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あおい満月 「月のなかの鳥」

あおい満月 「月のなかの鳥」

詩誌「びーぐる」38号(2018年1月20日発行)を拝受したので、ぱらぱら捲っていて、投稿欄巻頭詩、あおい満月さんの「月のなかの鳥」に出くわした。まさしく、出くわした、という新鮮な感銘を受けた。

月のなかの鳥
             あおい満月
私の瞼に咲く花は
いつも明るく黒い色をしている
明るい黒い色は
ナイフで切り刻まれた
唇の笑顔になって
翼のようにひろがっている
空を見上げては
飛び

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左川ちかの詩「緑」

左川ちかの詩「緑」

 『交野が原』96を拝受した。こちらは、編集発行人の金堀則夫さんが主宰する個人誌である。1976年創刊、今年で48歳にふさわしく、内容も充実。詩、評論、書評など、46人の書き手が寄稿している。
 その中の寺田操さんの評論、「左川ちか/緑色の透視」で、ちかの詩の中で私が1番好きな「緑」について書かれていた。以下に引用する。

朝のバルコンから 波のようにおしよせ
そこらじゅうあふれてしまう
私は山の

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思い出に逢いたい

思い出に逢いたい

 10年ほど前、シャンソンを習っていた。その時、発表会のために書いた歌詞に、先生が曲をつけてくださった。6月に始まり6月に終わった私の恋の歌。

思い出に逢いたい
                  
六月になったら思い出に逢いたい
あなたと出会ったあの街角
私は雨になって あなたの青い傘の上
まっさかさまに 落ちてゆくわ
あなたの隣で 笑う人がいても

六月になったら思い出に逢いたい
あなたと過

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杉本真維子さんの投稿詩

杉本真維子さんの投稿詩

 23年前、「現代詩手帖」2001年4月号に詩を寄稿させて頂いた(『ポーズ』、第三詩集『道草』所収)。懐かしくて、なんとなくページをめくっていると、投稿欄になんと、杉本真維子さんのお名前を発見。杉本さんは昨年、「皆神山」で、第31回萩原朔太郎賞を受賞なさった。個性的ではあるが品格の高いその詩風に、私もぞっこんである。
 投稿作品のタイトルは「逃げぬ水」。選者は横木徳久さん、岩成達也さんで、その両方

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中宮定子という人

中宮定子という人

 5月26日に放送されたNHK大河ドラマ「光る君へ」で、定子が突然、落飾した。兄弟が謀反を起こして流罪が決まったからといって、お腹に子供を宿しながら出家するのはどうかと思うが、一条天皇は、生まれた脩子内親王とともに内裏に呼び寄せ、定子を還俗させる。その後も帝の寵愛厚く、定子は、敦康親王、媄子内親王を出産。ただし彼女に対する周囲の目は「天下、甘心せず」(『小右記』)と、厳しい。
 紫式部はこの一部始

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多年草式株式投資

多年草式株式投資

 15年以上株式投資をしている。はじめのうちは大きな損もしたが、反省し自分のスタイルを確立することで、10年目位から利益を出せるようになった。
 私は、株式投資を、1年草と多年草に分けている。短期的な売買を繰り返す投資家は、季節ごとの派手な花で花壇を彩る1年草のようだ。その代表が1日のうちに何度も売買するデイトレーダー。膨大な利益を上げる場合もあるが、損失も大きい。
 それに対して私の場合は、多年

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潮騒

潮騒

 昨年、高校の同級生のKさんから連絡があり、夕食を共にした。彼女にに会うのは40年ぶり。彼女は現在、関東地方在住だが、小学生の頃は私が今住んでいる広島市の井口地区にいたと言う。私が初詣に訪れる神社の境内は「庭」のようなものだったらしい。Kさんが、その神社の本坪鈴(お賽銭箱の上の鈴)の話を始めたとき、私は、本坪鈴をまともに見たことすらなかったことに気づかされた。鈴緒の感触しかない。学年女子で1番高身

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柏原康弘詩集『詩の故郷吉備スケッチ帳』

柏原康弘詩集『詩の故郷吉備スケッチ帳』

 先日、岡山の後楽園で行われた市の朗読会でお知り合いになった柏原康弘さんから第三詩集『詩の故郷吉備スケッチ帳』をご恵贈頂いた。「牛窓」「備中高梁」「中洲の里」と題した3部構成で、30篇を収める。それぞれの地に住んでおられた頃、出会った風景を、言葉でスケッチして作品化。ご自分の詩について、いただいたお手紙に「昔の叙景詩というもので、本当に単純な作品ばかり。」とあるが、日常的な言葉で紡がれた詩句は、読

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依田義丸詩集『連禱』 

依田義丸詩集『連禱』 

 依田義丸さんの奥様、依田真奈美さんから詩集『連禱』をご恵贈頂いた。闘病中でいらした依田さんは、詩集を纏め了えたものの、完成前の3月14日に帰らぬ人となられた。どんなにか口惜しかったろうと、お察し申し上げる。依田さんとは面識はないが、1948年生まれ、京都大学出身とのこと。私の夫と年齢も大学も同じでいらっしゃる。どこか他人と思われない心持ちで、詩集を拝読した。
 収録された19篇の散文詩は、いずれ

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こいこい

こいこい

 一昨日の夜、飼い猫に小指を噛まれた。大した事ではないと思い、消毒してそのまま寝たのだが、朝目を覚ましたら、手全体がパンパンに腫れていて驚いた。朝と夕、病院で点滴をして、薬も飲んでいるが、良くならない。1番痛いのは小指で、いっそのことちょんぎってしまいたくなる。
 そういえば、指切りは、遊女の心中立から始まったとか。愛の証として、吉原の遊女が小指を切って、男に贈ったらしい。それが変化して、約束をす

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風通しの佳い抒情

風通しの佳い抒情

 木村恭子さんから、個人詩誌「くり屋」103号をいただいた。ゲスト詩人に山口美沙子さんをお招きして、4作品を掲載。

山口美沙子 大いなるもの
木村恭子  窓(20)
葉書 
      窓(21)

 後書きも、ご自身は意識しておられないかもしれないけれども散文詩さながらであるから、5作品掲載ともいえる。「窓」は、毎号2篇ずつ連載され、タイトルは同じ

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一人歩き

一人歩き

 先日、詩人のNさんからお電話をいただいた。
「詩集、出版おめでとうございます。これから、貴女の手を離れて、貴女の詩集は一人歩きするのよ」とおっしゃった。私はNさんのお人柄と作品を尊敬して師事しているのだけれど、Nさんは常に目線の高さを同じにして、控えめに励ましたり支えたりしてくださる。Nさんも今年、六冊目の詩集を出版なさった。「詩集は一人歩きする」は、私に対して、そしてご自身に対しての言葉だと感

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夕顔異聞 

夕顔異聞 

半蔀を覗き込みたり時鳥
花氷名も知らぬひとに恋をして
夕顔の花の吐息にうつむけり
やごとなきひとと知らるる薫衣香
昼花火恋のレンタルありますか
夏襲かくせし指の繊きかな
ひとを待つ丈なす髪を洗ひけり
一夜妻要はづれし夏扇
蚊帳の中物語ることすべて夢
駆け落ちの果ての果てまで流れ星
枢錠息止め落とす天の川
もののけが髪梳る木下闇
枕頭に顕つあやかしや居待月
生霊ひと取り殺す野分かな
いつはりはなしと

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本歌取り

本歌取り

 私の筆名は、『和泉式部日記』から戴いた。亡き恋人為尊親王の弟、敦道親王より橘の花を贈られた和泉式部は、「昔の人の」と思わずつぶやき、

薫る香によそふるよりはほととぎす
      聞かばやおなじ声やしたると

という歌を親王に返す。この歌の本歌が、古今集、読み人知らずの

五月待つ花橘の香をかげば
        昔の人の袖の香ぞする

である。「橘の花の香から昔の恋人をしのぶ」から「橘しのぶ

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ひとりでさびし

ひとりでさびし

ひとりでさびし
ふたりでまいりましょう 
みわたすかぎり 
よめなにたんぽ
いもとのすきな
むらさきすみれ
なのはなさいた
やさしいちょうちょ 
ここのつこめや  
とうまでまねく

 これは宮城県仙台田尻地方の童歌である。私は、この歌を、安房直子さんの童話『さんしょっ子』での引用で、初めて知った。すずなの家の畑に立つ山椒の精さんしょっ子が,すずなのお手玉をくすね、声も真似て、「ひとりでさび

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