詩を書く意味 野木京子詩集『廃屋の月』
巻頭詩は、『汽水域』。汽水とは淡水と海水とが入り混じった状態をさし、湾や河口部分が汽水域にあたる。「母の舟が時間の川霧を押し分けて現れた/空ろな刳舟のようだったが まっすぐ流れてきたので/その日から わたしは死んだ母の舟に乗って生きている(第一連)」。死を、命の句点と捉えるのは、生者の思い上がりかもしれない。死者の側から見れば、それは読点にすぎず、時間の流れの汽水域で生者に寄り添っているのかもしれない。
視点を置き換える行為は、本詩集で繰り返される。扉の裏から見たら表が裏だか