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清岳こう詩集『脳外科病棟505』

 清岳こうさんは、2022〜2023年度、詩誌『詩と思想』投稿欄の選者を担当なさっていた。2010年から11年間、自主的に詩を絶っていた私は、全くの浦島太郎状態で、どうやって詩を勉強し直そうか思いあぐねていた時である。清岳さんの綿密で温かい選評を読んだ時、「この人についていこう!」と決めた。それから投稿を始め、ほぼ毎回取って頂き、2023年度の最優秀投稿詩に選ばれた。
 そんな御恩のある清岳さんから、このたび、最新詩集『脳神経外科病棟505』を拝受、拝読して驚いた。あんなにも歯切れの良い選評を書いておられた清岳さんが投稿欄選者を担当なさる少し前まで、脳の手術、半年以上の闘病生活をなさっていたことを
知ったからである。

 巻頭詩『かいとう』の第一漣は、

「かいとう」と説明するので 
快投?と若々しい頬に目をやる
会頭?と太い眉を眺める
まさか 解答ではあるまい 
ぼんやりしていると
こともなげに「開頭」が返ってきた

 他人事のような書き方は、自分に突きつけられている状況を受け止めかねているからに違いない。

 第四連は、「いとせめて/前頭葉で育った生意気、子生意気、天邪鬼を切除しないで/毛細血管に引っかかっている無鉄砲 ひねくれ者を摘出しないで/海馬をさまよう憎悪 反逆 寂寥は見て見ぬふりをして」頭蓋骨を開く手術である。当事者の不安は計り知れない。手術の結果によっては、喜怒哀楽が失われる可能性もある。詩人にとっては致命傷だ。最後は、「このままでは 人間廃棄ではないか」と結ばれる。 
 
 ところで、本詩集は、Ⅰ 8人部屋、Ⅱ 手術室・集中治療室、Ⅲ 恢復、Ⅳ その後、の4章で構成されている。命に関わる病気の人同士、寝食を共にするうちに、肉親以上に近しい関係になっていく。それぞれの人の病状は、ユーモアを散りばめて綴られるが、読んでいて、切ない。中でも、私が最も心魅かれた詩を一篇、全文紹介いたします。

美しい少年に

自動販売機の前
どっちが日本アルプスの水で
どっちが土佐深層水の水かと聞かれ
美しい少女だったと気がつく

医学部に行きたい 脳外科の医師になりたいと
大きな瞳はほのかな光を感じるだけらしく
今は 丸坊主の捨て身のスタイルではにかんで


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