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中宮定子という人

 5月26日に放送されたNHK大河ドラマ「光る君へ」で、定子が突然、落飾した。兄弟が謀反を起こして流罪が決まったからといって、お腹に子供を宿しながら出家するのはどうかと思うが、一条天皇は、生まれた脩子内親王とともに内裏に呼び寄せ、定子を還俗させる。その後も帝の寵愛厚く、定子は、敦康親王、媄子内親王を出産。ただし彼女に対する周囲の目は「天下、甘心せず」(『小右記』)と、厳しい。
 紫式部はこの一部始終を観察していたはずだ。源氏物語の紫の上は彰子がモデルであるとされるが、定子の生き様も人物設定に反映されている。光源氏の母、桐壺更衣は、高くは無い身分でありながら帝の愛を独占したがために周囲の反感を買い、病死する。後ろ盾を失い、それでも帝に愛されて25歳の若さで亡くなる定子に重なる。紫の上は晩年、出家を切願するが、源氏が断じて許さない。ここにも反面的に定子の行為が影響していると思われる。女三宮が源氏の正妻として迎えられることで、正妻格であった紫の上は立場を失う。彰子が新たに一条帝の中宮になり、定子は皇太后となる。女三宮が彰子、紫の上が定子に、私の中では重なる。

 最後に、定子の遺詠を三首、あげます。

夜もすがら契りしことを忘れずは 
        恋ひん涙の色ぞゆかしき

知る人もなき別れ路に今はとて
        心細くも急ぎ立つかな

煙とも雲ともならぬ身なりとも
         草葉の露をそれとながめよ


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