見出し画像

ひとりでさびし

ひとりでさびし
 ふたりでまいりましょう 
みわたすかぎり 
よめなにたんぽ
いもとのすきな
むらさきすみれ
なのはなさいた
やさしいちょうちょ 
ここのつこめや  
とうまでまねく

 これは宮城県仙台田尻地方の童歌である。私は、この歌を、安房直子さんの童話『さんしょっ子』での引用で、初めて知った。すずなの家の畑に立つ山椒の精さんしょっ子が,すずなのお手玉をくすね、声も真似て、「ひとりでさびし」と歌い‥物語は数年を経て、切ないラストを迎える。『さんしょっ子』が名作である事は言うまでもないが、活字で読んだ時から、私はこの歌そのものに強く惹かれた。そして近頃、動画を通して旋律を知ったとき、体中が震えるほどの感動に見舞われた。遠い昔から歌われ続けてきた童歌のようなものには、不思議な力が宿っているのだろう。
 詩集『水栽培の猫』に収録した「やさしいさかな」という作品に、この歌を部分的に引用した。最初はそうではなかったが、推敲を重ねるうちに私の裡に「ひとりはさびし‥」が通奏低音となって流れ始め、目から鱗が落ちるように「やさしいさかな」は完成した。
 昨日、詩の仲間から「あなたは一人では生きていけないタイプでしょ?淋しくて」と言われたのだが、実はそんな事はないと私自身は思っている。所詮、自分以外の誰かと100%理解し合うことはできない。だから、私は、一人よりも二人が淋しい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?