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小説『チロとおっちゃん』の絵について

こちらは大枝岳志さんの小説『チロとおっちゃん』にまつわる絵に関する制作記事です。先に小説をお読みになった方がより一層記事をお楽しみいただけます。




これも以前書いたnolyさんコラボと同じで、展覧会メンバーとのクリスマスコラボ記事を目的として作りました。大枝さんへはクリスマスをテーマになんか書いて〜!で決定。
(※大枝さん…小説・エッセイ・随筆noteの人。世界は物騒だったりハートフルだったり。)

大枝さんの場合はがっつり小説がメインのため、絵は最後にぽんと置いて、挿絵よりも象徴画やイメージ画のような立ち位置です。なので堂々とネタバレになってしまうのです。

では、絵についてお話ししますね。
全部鉛筆で描いてデジタル彩色です。

前半

上の絵は、前半の最後に載せたものです。
おっちゃんの人の良さとチロとの仲良しな関係のあたたかさを出したくて、柔らかで明るい雰囲気にしました。実際河川敷ってもっと汚いんですけど、あたたかみ重視です。周囲のぽつぽつした光は桜と銀杏の形をしており、四季の巡りや二人の過ごした季節を出しています。手法は鉛筆で桜の花びらと銀杏の葉の集合を描き、コピペで増産。デジタルって便利ですね。

そばに置かれた缶コーヒーはBOSSブラックです。UCCじゃない。
大枝小説の扉絵をいくつか作っていますが、イメージのすり合わせや打ち合わせは一切しておらず、読む→描く→どうすかね!ポ〜ン!と投げ込むスタイルです。この小説も例外ではなくそのように出したところ、「(作中で)書いてないのに合ってる」とリュックの色や缶コーヒーのメーカー、安っぽい靴といった細かなアイテムについて満足してもらえて良かったです。文に具体的な描写が無くても書き手本人の中で決まってるものがあるんだなと学べました。

絵のタッチは、わーリアル!よりも、絵ですっていう最低限の機能とスケッチのラフさ…ある一場面の記録っぽい印象が欲しかったのでおっちゃんの描写は4B鉛筆のザカザカを残しています。



後半


後半の方は、当初全然違う構図やアイテムでラフを作っていました。チロと一緒にどっかの高台から街のあかりをリヤカーに腰掛けて見ている図で、場面展開を考慮すれば割とオーソドックスな、クリスマスらしいものです。

ここが難しいところで、絵でどこを切り取るかは書き手の性質で左右されます。
大枝さんはシャンシャンハッピーでメリーなクリスマスだけを掬う人ではありません。終わり方も、わかりやすく明るいものではない。
なので、後半でも読んで感じたこと……人、死、時間、季節の巡りといったキーワードを拾って展開しました。物語全体の温度と前半の絵を考慮し、壁は前半と全く同じに変更。同じ場所で違うものが置かれていることで時間の経過を出しました。後半は雪を散らせて冬の光にしています。
壁の色は前半よりも優しく明るく。硬めの鉛筆を使っています。雪の明るさのほか、お墓参りに訪れた人が「二人は天国で楽しくリアカー引いてるんだろうなと感じている目線」をイメージしています。

壁は前半のをコピペし、雪の粒は鉛筆で描いてコピペで増産。デジタルって便利ですね(2回目)


扉絵


扉絵は最後に完成しました。
展開を予想させず、クリスマスを少し想起させるものをと思い、雪の夜とコンビニチキンにしました。拘りは、クリスマスのみ販売してる骨つきのじゃなくて、いつでも売ってるやつにしたところ。下の方はチロがかじってます。

3枚のなかで、ある意味最も時間がかかったのが扉絵です。
食べ物、特に揚げ物を描くのはとても難しくて、実際にセブンで普通のやつ(ナナチキ?)を買ってきて自分でかじって、それを見ながら描きました。おっちゃんは売れ残りのように入ってる廃棄寸前の油が染みたチキンを買って外で冷めたやつを食べてるんだろうなと想像し、描いた後は温め直さず冷めた状態で食べました。

絵のタッチは、わたしの思う「文庫の表紙にありそうなやつ」にしました。配色がシンプルで、そつがなさそうなやつです。鉛筆線の色をデジタルで変更し、背景の濃紺と軽くチキン色を入れる程度にしています。散らした雪は後半絵の雪粒フィルターを使ってます。デジタルってべn(3回目)

ちなみにnolyさんとのコラボもそうですが、前半をわたしが、後半を書き手が投稿しています。挿絵の役割は読み手へのイメージ補助に過ぎず、読了後に読者が感想を言いたくなるのはやはり書き手だろう、と敬意をささやかに込めての構成です。

感性のピントが非常に近い大枝さんとは何回か絵で遊ばせてもらっています。紙の絵本を一緒に作っており、そちらの数点も近々投稿しますので皆様にお楽しみいただけたら幸いです。
ここまで何も言わなくても一致するというのは相当に稀有な事なのだなと実感しております。大枝さん、ありがとうございました。




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