見出し画像

サービス業の顧客中心主義は果たして正しいのか?

「顧客中心主義」とは顧客の満足度向上を最優先にし、サービスを設計する考え方のことだ。現在美容室を全国330店舗以上展開する企業で働く私は、たまにこの「顧客中心主義」に疑問を持つことがある。それはなぜか?

その疑問の解をホテル業界にみた気がした。ラグジュアリーホテルの代名詞とも言える『リッツ・カールトン』は、顧客満足度を高め、ブランド価値を高める様々な取り組みを実施しており、度々メディアでも紹介されている。例えば、リッツ・カールトン大阪に宿泊したある大学教授がホテルの部屋に忘れた眼鏡と資料を、従業員が新幹線で追いかけ、東京駅で渡したことは有名な話で、他のホテルでは決して真似できないレベルでのサービスを提供している。

では、この高いサービスレベルはどのようにして実現できているのか?

それはリッツ・カールトンの従業員として「あるべき姿」をクレドと呼ばれる企業内価値観として明文化され、全従業員に落し込まれているからである。クレドは以下の通りで、すべての従業員はこの3つの価値観の体現を求められる。


クレドによる従業員育成施策の1つが「ファイブスター社員」表彰制度である。受賞者は胸に特製のバッチを付けることが許され、従業員のモチベーションと能力を引き出す重要な役割をはたしている。

私たちAgu.グループも店舗ビジネスを営む上で、リッツ・カールトンのような高いサービスレベルの実現は大いに見習うべきである。Agu.はプチプライスと呼ばれる安価でサービスを提供している。カットとカラーで3,900円は誰に話しても安いと言われ、さらにスタイリストには業界よりも高い報酬を支払っている。そんな状況下で、リッツ・カールトンと同レベルのサービスは一見難しいように感じる。ただ真似できる点が全くないかと言われるとそうではない。両社はサービス業である。お客様に体験を提供している。その中で、最も重要な共通点を1つ発見した。

リッツ・カールトンの経営哲学に「働く人々に、働いていてよかったと思える環境を提供し、従業員が心から満足した結果、初めて顧客が満足するサービスを提供でき、結果として収益も上がる」というものがある。そして、Agu.も基本的な経営哲学として、「年収300万円とも言われるスタイリストの報酬水準を上げ、勤務時間などの働く環境の向上こそがお客様へのサービスレベルと満足度を引き上げる。ひいてはグループ全体の発展につながる」と考えている。根本に流れる考え方が同じだったのだ。

サービス業を展開する上で顧客満足度は重要であるが、働く従業員の満足度向上は決して優先度の低い事項でない。むしろ最優先事項といっても過言ではなく、現にリッツ・カールトンの差別化要素として機能し、結果として顧客満足度で国際評価機関トップの評価を得ている。リッツ・カールトンではお客様と直接接する従業員に対して徹底的に投資することと権限委譲することが従業員の満足度を高めると考えられており、以下のように実施している。

■教育(投資)内容
アルバイトを含めた全従業員に対して、本場アメリカでの研修や毎朝支配人を講師にしたサービス業のあり方についての勉強会を実施。

■3つの権限移譲
1.上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること。
2.セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること。
3.1日2000ドル(約20万円)までの決裁権。

もちろんリッツ・カールトンとは業態も客層も異なるため、同じことをする必要はないが、Aguでもグループ全体でスタイリストへの教育と権限委譲のできる体制づくりに力を入れ、臨機応変な最良の接客ができるようにしていきたい。実現するためには、いままで以上に企業の最大の顧客はスタイリストであると考える必要がある。従来の「顧客中心主義」である顧客のニーズの把握を優先したサービス開発をする前に、スタイリストの考える「あるべき接客」を抽出し、Agu.版のクレドや行動規範を作る方が従業員満足度、及び顧客満足度を向上させる王道ではないか。

であるならば、サービス業は「顧客中心主義」ではなく、「従業員中心主義」の方が良さそうである。

この記事が参加している募集

#とは

57,715件

いま経験してること、感じていること、考えたことを、いままで学んできたことをベースに全て無料でかいています!フォローやスキ、コメント励みになります!よろしくお願いします!