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渋谷で17時(第1話)春と風 🚲-6 【シロクマ文芸部】

◆あらすじ◆

自転車旅行する学生、地方の公務員、ピザ屋のアルバイト、工場で働く会社員、渋谷駅前交番に勤務する警察官、コスプレする謎の男。見知らぬもの同士が渋谷のハチ公前広場に集まる。17時に何が起こるのか?


春と風、去年の今頃を思い出す。憲吾が1浪の末、第一志望の都内の大学に入学してから1年が過ぎようとしていた。入学式の頃はまだ新型インフルエンザ等感染症、いわゆる「2類相当」の位置づけでコロナ対策が続いていたが、ゴールデンウイーク明けからからは「5類感染症」に移行され、以前の生活に戻りつつあった。

コロナ渦が去り、いよいよ大学でのキャンパスライフを存分に楽しむときがきたかと期待したが、これといって大きな変化はなく、いわゆる普通と思われる大学生活を送っていた。

せっかく大学生になったのだから、何か思い出に残ることをしたい。しかし、その何かを見つけることができずにいた。

そんな2年生を迎える春休みに、ついにやりたいことが見つかった。きっかけは大学で知り合った友人と渋谷へ遊びに行ったことだった。

「大館駅前にもハチ公がいるんだぜ」
「オオダテ?」

「そう、秋田県の大館」
「なんで、そこにハチ公がいるの?」

「ハチ公が秋田犬だからだよ」
「そうなんだ」

突然、ひらめいた!大館から渋谷まで自転車で旅行するのはどうだろうか?なんか、大学生らしい冒険じゃないか!思い立ったら吉日。早速、ネットで調べてみた。1日100kmペースで移動したら7日間で渋谷まで行けることがわかった。

1日目:大館 → 盛岡 125 km
2日目:盛岡 → 一関 93 km
3日目:一関 → 仙台 87 km
4日目:仙台 → 福島 81 km
5日目:福島 → 白河 82 km
6日目:白河 → 宇都宮 80 km
7日目:宇都宮→ 渋谷 113 km

気分が高まってきて、友人に相談してみた。

「面白そうじゃん」
「一緒にやってみないか?」

「やだよー。だけど大館まで自転車を車に載せて送ってやってもいいぜ」
「そいつは助かる。往復はきついと思ってたんだ」

友人の実家にはワンボックスカーがあり、運転免許証を取得していた友人としても遠出のドライブは楽しみであった。

………

金曜日に昼飯を食べてから、友人のワンボックスカーに自転車を積んで、まずは盛岡に向かった。高速道路は空いていて、19時前には到着した。軽く食事をして、その日はすぐに就寝した。翌日は友人と一緒に観光した。十和田湖に行って乙女の像を見てなんとも言えない気分になり、奥入瀬渓谷を散策してから大館に向かった。温泉に入った後、自転車旅行の成功を祈念して、きりたんぽ鍋を食べた。

出発の朝の日曜日。友人は大館駅まで送ってくれた。

「いよいよ、出発だな」
「うん。ワクワクしてきた」

「渋谷のハチ公像で待ってるよ」
「オーケー」

「いつ頃、到着する予定なんだ?」
「土曜日の17時頃かな」

「じゃあ、渋谷で17時だ」
「うん、渋谷で17時」

(つづく)

第1話 春と風  🚲-6
第2話 卒業の  🚌-5
第3話 朧月   🍕-4
第4話 桜色   💗-3
第5話 始まりは 👮‍♂️-2
第6話 変わる時 🥷-1
第7話 風車   🍕16:30
第8話 花吹雪  👮‍♂️16:44
第9話 春の夢  🚲16:50
第10話 子どもの日🥷16:55
第11話 風薫る  🚌16:55
第12話 白い靴  💗16:55
第13話 金魚鉢  👮‍♂️16:55
第14話 赤い傘  🥷17:00
第15話 雨を聴く 🍕16:55
第16話 紫陽花を 👮‍♂️17:00
第17話 月曜日  👮‍♂️17:05
最終話 ラムネの音💗🚲🍕👮‍♂️🚌🥷17:00(エピローグ)



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