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渋谷で17時(第14話)赤い傘 🥷17:00【シロクマ文芸部】

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赤い傘を持った女性がハチ公前広場を歩いていた。昨夜に降った雨は朝にはやんでいたが、念のため持ってきたのだろうか。赤い傘を持つ反対の手で重たそうな荷物を持ってた。その女性の後ろを金魚鉢のバルーンアートを抱えた女の子が歩いていた。

しばらく歩くと女性は荷物を持ち替えようとして、荷物を持っている手で赤い傘の胴体の部分をつかんで横持ちにした。

空いた手で荷物を持とうとしたとき、バランスを崩して立ち止まってしまい、女の子との距離が縮まった。

女性が横持ちしていた赤い傘の先端が女の子が持っていた金魚鉢のバルーンアートを突き刺してしまった。

『パンッ』
「うわぁぁあーん」

女の子が火の付いたように泣き出した。赤い傘を持っていた女性が驚いて振り返ると、荷物を降ろして女の子と同じ目線にしゃがんで懸命に謝っていた。

忍者ハッタリのコスプレイヤーはそんな様子を眺めながら、目の前に立っている警察官から受けている職務質問に対して、なんて言い訳をしようか懸命に頭をフル回転させていた。

「うわぁぁあー!」
『ドサッ』

今度はなんだとハッタリくんが振り返ると電動キックボードが道路に横たわっていた。その先に人が倒れていてピクリとも動かない。

(いまだ)

ハッタリくんは空気入れをつかんでその場から逃げ出した。

「まてっ」

振り返ったが警察官は追ってこなかった。人命救助を優先したようだ。とりあえず、宝くじ売り場の裏にあった階段を数段降りて身を隠した。ハッタリくんの衣装を脱いでバックパックにしまい、一般人に紛れ込むことにした。

恐る恐る、野次馬どもが集まっている場所の様子をみると安堵の声があがっていた。おそらく電動キックボードと一緒に倒れていた人が助かったのだろう。

『ピーポー ピーポー ピッ』

救急車が停まった。倒れている人を救助しに来たのだろう。救急車で運ばれて、このあとここで起こる惨劇から逃れることができる。きっと、ユートピアに選ばれた人なのだろう。

それにしても、野次馬たちはどうだ。チラッと見ただけで通り過ぎていく。みんな自分のことにしか関心がないのだ。そういう悪い人間には地球上から消えてもらわなければならない。

ハッタリくんは、毒物が入ったペットボトルロケットから伸びているチューブに空気入れをつないでポンピングした。ペットボトルロケットはみるみると膨らみパンパンになった。

もう少しで17:00になる。落ち着こう。ゆっくりと深呼吸を繰り返した。

「きゃー!」
「おおぉー!」
「『詩』だ!」
「スクランブル交差点に『詩』がいるぞ!」

スクランブル交差点で歓声があがった。予定時刻通りに、とくに悪い人間がゲリラライブを始めたようだ。ハチ公前広場にいる全員がスクランブル交差点に視線を向けた。

(いまだ!)

ハッタリくんは宝くじ売り場の側にペットボトルロケットを設置して、遠隔操作用のワイヤーを伸ばし、宝くじ売り場の裏の階段を数段降りた。

(よし。やるぞ)

もう一度、深呼吸をしてからレバーを握ろうとしたとき、渋谷駅のハチ公口改札付近に立っている警察官と目が合った。先程、自転車から空気入れを盗もうとしたときに職務質問してきた警察官だ。

「おい、そこで何をしているんだっ!」

警察官が駆け寄ってきた。迷っている暇はなかった。ハッタリくんは勢いよくレバーを握った。発射台から切り離された毒物が入ったペットボトルロケットはスクランブル交差点の上空に向かって飛び上がった。

(つづく)


◆この作品はフィクションです◆



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