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渋谷で17時(第6話)変わる時 🥷-1【シロクマ文芸部】

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「変わる時、それは今なのです!」

男は大学時代の新歓コンパを思い出していた。

入学式のあと、サークルの勧誘で『ユートピア研究会』に声をかけられた。全ての科目の過去レポートが揃っているから、必ず単位が取れるとの謳い文句にのせられたこともあったが、メンバーが自分と同じ匂いをしていたことも入会したきっかけだった。

新歓コンパは一風変わった建物の施設で行われた。その施設にいる人は真っ白でどこかの国の民族衣装のような服装をしていた。まるで穢れを恐れているかのように。

新歓コンパでは特別なお酒が振る舞われた。初めてのお酒で酔うという感覚はわからなかったが、とても心地よく神経が研ぎ澄まされる感じがした。そして、施設の代表者による挨拶が始まった。

「地球上で異常現象が発生しているのは悪い人間がいるからなのです。神が罰を与えているのです。悪い人間には地球上から消えてもらわなければなりません。さあ、みなさん。変わる時、それは今なのです!一緒にユートピアを築きましょう」

そうだ、世の中には悪い人間がたくさんいてうんざりする。地球上に悪い人間がいないユートピア。なんて甘美な響きなんだ。

それから『ユートピア研究会』に没頭するようになった。

………

男は遮光カーテンで閉ざされた薄暗い部屋のなかで『忍者ハッタリくん』のコスプレをして、バルーンアートの練習を繰り返していた。プードルにクマ、バラの花束まで作れるようになっていた。一番簡単で人気があるのは剣だ。とくに男の子に喜ばれる。

明日は渋谷駅のハチ公前広場でバルーンアートフェスが開催される。それに紛れるため練習しているのだ。忍者ハッタリくんのコスプレを選んだのも素顔を隠すためだ。

真の目的は渋谷のスクランブル交差点に大量の毒物をばら撒くことだった。

悪い人間がたくさん集まる渋谷がターゲットだと男は洗脳されていた。段取りはこうだった。17時にスクランブル交差点でとくに悪い人間がゲリラライブを行う予定で、そこに集まった野次馬どもに向かって液体の毒物をばら撒く。

毒物をずっと持っているのは危険であり、バレたら全ての計画が無駄になってしまう。そこで飲料水だと偽って出前サービスの『ユーザーミーツ』に装って17時前までに毒物を男に届けることになっていた。

男は明日に向けて綿密な準備を済ませていた。昂る興奮を抑えきれずになかなか眠りにつくことができなかった。

決行は、渋谷で17時。

(つづく)


◆この作品はフィクションです◆



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