渋谷で17時(第5話)始まりは 👮♂️-2【シロクマ文芸部】
始まりはいつだって決まっている。ジンクスってやつだ。必ず悪いことが起きる。あの日もそうだった。たまたま時計を見たら『4:44』だった。そう、弘樹にとって悪いジンクスは4のゾロ目だった。
「おまわりさん『109』はどこにありますか?」
「後ろを振り返ってみてください。スクランブル交差点の先に見えるのが『109』です、ってオイ!」
「おまわりさん、ありがとうございます」
「なんの用だ、伸三。冷やかしに来たのか」
伸三は弘樹と同期の刑事だった。3ヵ月前まで同じ部署だったが、弘樹は今、渋谷駅前交番に制服姿で勤務している。
「弘樹、元気出せ。お前ならすぐに刑事課に戻れるさ」
「気休めはよせ。俺だってわかってるんだ」
時計で『4:44』を見たあの日、弘樹はしくじってしまった。もう、刑事課に戻れることはないだろう。
子どもの頃からそうだった。夜中に目が覚めて時計を見ると『4:44』であることが何度かあった。その日は忘れ物をしたり、転んで怪我をしたり、大きな地震があったり、悪い出来事ばかりが起こる。『4:44』がトラウマになっていて、夜中に目を覚めても時計を見ないように気を付けていたくらいだ。
「まあまあ」
「交番勤務もいいもんだぜ。帰りたい時間に帰れるからな」
「強がってるな」
「明後日の土曜日は娘の誕生日なんだ。17時にあがって、ケーキを買って帰るんだ」
「おっ、家族サービスか。いいね」
「お前も家族を大事にしろよ。って、刑事さんには無理か」
「それじゃあ、そろそろ行くわ。お・ま・わ・り・さんっ」
「ああ、とっとと失せろ」
弘樹は手のひらを裏返してシッシッという感じで追い払った。土曜日は娘の誕生日だ。刑事だったときは決まった休日はなく、帰る時間もいつもバラバラで、何度、娘との約束をやぶったことだろう。そのたびに娘から「ぜっこう」を言い渡されて数日間、口を聴いてくれなかった。
刑事には未練があるが交番は勤務時間が決まっているし、より市民に近いところで人の役に立っている実感があって悪いものでもないと思うようになっていた。
土曜日はなんとしてでも17時に帰るぞ。事件なんか起きないでくれよな。そう、弘樹は祈っていた。
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