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月曜日 👮♂️17:05【シロクマ文芸部】
月曜日から準備をしてきた。
今日は弘樹の娘、明里の誕生日だった。17時に仕事を終えて、ケーキを買って家に帰る予定だった。だから月曜日から前倒しで雑務を行ってきたのだ。今日の日のために。それなのに忍者ハッタリくんが現れて邪魔された。絶対に許せない。絶対に捕まえてやる。
イヤホンから無線の音声が聞こえた。
『おい、弘樹。おい、聞こえてるか?』
「なんだ、伸三か」
『なんなんだ、このシャボン玉は?』
「ただの洗剤だ」
『洗剤?』
「ああ、毒物をばら撒く予定が洗剤にすり替わっていたんだ」
『毒物?』
「詳しい説明はあとだ。ホシは忍者ハッタリくんだ」
『ハッタリ?』
「地下に逃げた。もうコスプレはしていない。身長170㎝くらいの男だ。青いシャツに、ベージュのチノパン、黒いバックパックを背負っている」
『そいつがこのシャボン玉のホシなのか?』
「そうだ」
『わかった。全員、地下に集結させる』
「頼む」
弘樹は階段の上から地下を眺めた。このまま地下鉄に乗って逃げるのか?毒物をユーザーミーツを使って受け取って、ペットボトルロケットで打ち上げてばら撒く連中だぞ。用意周到だ。それに犯人は必ず現場に戻ってくる。きっと、惨劇を見届けてから逃げるはずだ。ヤツは地上に出てくる!
スクランブル交差点はパニックになって車は近づけないと考えて、恐らく電車に乗って逃げるはずだ。周りを見渡すと頭上に京王井の頭線が見えた。これだ!ヤツは地下鉄と見せかけて、井の頭線で逃げるつもりだ!
井の頭線高架下の歩行者用信号機が青であることを確認して、駆け足で横断歩道を渡った。ここからなら、スクランブル交差点を遠くから見ることができる。
スクランブル交差点方面を探していると地下につながる階段から、花粉症用のゴーグルとサージカルマスクをした男がゆっくりと階段を上がってきた。ヤツに違いない。刑事の勘ってやつだ。男に駆け寄った。
「すみません。ちょっとお話を伺っていいですか?」
男はきすびを返して階段を駆け下りた。
「待てっ!」
階段の下を覗くと伸三が現れた。
「おっ、ナイスタイミング。伸三、そいつだ」
「よお、弘樹。こいつがハッタリくんか?」
伸三は飛びかかってきたハッタリくんを受け流すと腕を取って抑えつけた。
「ちょっと、署まで同行願えるかな?」
「離せっ!」
「公務執行妨害で逮捕しても構わないんだぜ」
「…」
おとなしくなったハッタリくんの腕を掴んで立ち上がらせた。
「お手柄だ、伸三」
「どうして、こいつがハッタリくんってわかったんだ?青いシャツじゃなくて白いパーカー姿だぜ」
「いかにも不審者だろ。それに、そいつの目元に泣きぼくろがあったんだ。さっき職質したときに気づいていたんだ」
「さすが、元刑事。よく見てるな」
なんとか犯人を捕まえることができてよかった。ペットボトルロケットの発射は止められなかったが偶然にも毒物ではなく洗剤にすり替わっていたのは不幸中の幸いだった。
「これで4時44分を見た悪いジンクスは、ようやく外れたみたいだ」
「よかったな。それじゃあ、署に戻って報告だ。一緒に来てくれ」
『ティン』
SNSの通知音が鳴った。弘樹の妻からのメッセージだった。
「やっぱり、ジンクスに外れはないようだ」
「どんなメッセージが届いたんだ?」
『早く帰ってきてね。約束をやぶったら「ぜっこうする」って明里がいってるわよ』
(最終話、エピローグにつづく)
ショートショート?をつなげて連載中です。毎週金曜日に投稿予定です。
目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
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