見出し画像

渋谷で17時(最終話)ラムネの音 💗🚲🍕👮‍♂️🚌🥷17:00【シロクマ文芸部】

( 前 話 / 目 次 )


(エピローグ)

💗

「ラムネの音。ほら、ピーって聞こえないか?」
「聞こえるわよ。もうすぐ、おうちに帰る時間なのね」

「おうち?」
「ヒツジたちが厩舎に戻る時間ってことよ。牧羊犬に指示を出しているのよ」

「ああ、犬笛だったのか」
「そうよ」

「久しぶりに牧場にきたから、子どもの頃の遠足を思い出したのかもな」
「遠足?」

「ああ。フエラムネが好きでさ。遠足のおやつには必ず買ってたんだ」
「そういうことだったのね」

厚貴の一人息子は就職して一人暮らしをしている。妻の莉音との二人だけの生活に戻っていたが、ずっと変わらないものがある。二人の共通の趣味であるアニメだ。

いまハマっているは『警察犬アレックス』だ。相棒の刑事モーリーと難事件を解決していくアニメだ。聡明なアレックスとちょっと間の抜けたモーリーとの掛け合いが面白い。人気のシリーズで今年、映画化された。内容は事件が発生した帳面のーと町にモーリーとアレックスが訪れて、地元の牧羊犬ロビーと一緒に事件を解決していくストーリーになっていた。

「ここだわ。この時計台の前がアレックスとロビーが一緒に犯人を捕まえたところだわ」
「あのー、すみません。写真を撮って頂けますか?」

厚貴は近くにいた3人家族に声をかけた。

🚲🍕

写真撮影を頼まれた憲吾は快く了解した。年配の夫婦からスマホを受け取った。

「背景はどうしますか?」
「この時計台をバックにお願いします」

「わかりました。では撮りますよ。ハイチーズ!」
「ありがとうございました」

「アレックスのファンですか?」
「そうなんです」

「うちの娘もファンなんです」
「そうなんですね。嬉しいなあ。イベントにも参加されるんですか?」

「ええ、そのために来ました」
「またあとでお会いするかもしれませんね」

憲吾は年配の夫婦にスマホを返すとしばらく時計台を眺めていた。

「あなた、行きましょ。どうしたの感慨深かそうに」
「学生時代に未希と初めて一緒に旅行したのがここだったなって思ってさ」

「そうね。懐かしいわ」
「もう、30年前か」

娘の花絵が未希の腕を掴んで引き寄せると小さな声で話しかけた。

「お母さん。お父さんとはどうやって知り合ったの?」
「バイト先の宅配ピザ屋で知り合ったのよ」

「お父さんもピザ屋でバイトしてたの?」
「お父さんはピザ屋によく来る配達のユーザーミーツでバイトをしてたの」

「ふ~ん。そうだったんだ」
「何回か顔を合わせているうちに仲良くなって、告られたのよ」

「お母さんに会うために、わざとピザ屋の注文を選んでたんじゃない」
「ふふふ、そうかもしれないわね」

「なんの話をしてるんだ?」
「ふふふ、秘密よ。ねー」
「ねー」

「まあ、いいや。そうだソフトクリームを食べようよ」
「そうね、りんご味が名物だからね」
「食べたい!食べたい!」

憲吾たちは売店に向かった。

👮‍♂️

「芽衣は何が食べたいかな?」
「ソフトクリーム!」

「りんごとバニラ、どっちがいい?」
「バニラ!」
「りんごが名物なんだけど、まあ、好きな方がいいか」

弘樹は娘夫婦と孫の芽衣と一緒に帳面のーと町を旅行していた。芽衣はアニメ『警察犬アレックス』が大好きだった。今年、町おこしを兼ねて帳面のーと町を舞台にして映画化されていた。アレックスのファンはいわゆる聖地巡礼で帳面のーと町を訪れていて大変賑わっていた。

テーブルでソフトクリームを食べていると清掃員が近づいてきた。

「お嬢ちゃんはアレックスのファンかな?」
「うん」

清掃員は道具入れから細長い風船を取り出して膨らませると、器用に犬の形を作りあげていった。バルーンアートってやつだ。

「はい、どうぞ。アレックスだよ」
「うわー、アレックスだ。おじちゃん、ありがとう」
「孫のためにありがとうございます」
「いや、いいんですよ。バルーンアートは私の趣味なんです」

清掃員は他のテーブルの子ども達にも声をかけて、アレックスのバルーンアートをプレゼントしていた。そんな光景を眺めていた娘の明里は弘樹の目付きが鋭くなっていることに気づいた。

「お父さん、どうしたの?なにか、気になることでもあったの?」
「あの清掃員なんだけど、どこかで会ったことがある気がするんだよな」

「似てる人なんて、世の中にたくさんいるわよ」
「そうだよな。でも、あの目元の泣きぼくろに見覚えがあるような…」

🚌🥷

「シュウさん、お疲れ様」
「部長さん。お世話になっています」

「どうだい、元気でやってるかい?」
「はい、前科者の私に働く場所を紹介して頂いて感謝しています」

「清掃の仕事なのに、バルーンアートまで作ってくれて助かるよ」
「いえ、趣味みたいなものですから。それに材料は経費で買ってもらえますから」

「そう言ってもらえるとありがたいよ。子ども達が喜んでさ」
「はい、ここは私のユートピアになりました」

広和は県庁の地域振興部の部長になっていた。アニメ『警察犬アレックス』の映画化の舞台を帳面のーと町に誘致した立役者だ。今日は『警察犬アレックス』のイベントを開催していて、人気声優を招いたトークショーも予定されている。

そろそろ放送をいれてもらおうかと思い、広和は案内所に向かった。

『本日は帳面のーと町、渋谷牧場にお越し頂き、誠にありがとうございます。本日最後の警察犬アレックスショーがまもなく時計台前広場にて開催されます。人気声優のうたさんによるトークショーも行われます。開演時刻は17時です。皆さんぜひ、ご参加ください』

(おわり)



(あとがきはこちらをクリック)


(ひとつ前の話はこちらをクリック)

ショートショート?をつなげて連載にしました。最後まで読んで頂きありがとうございました。
目次に各話のリンクを貼っています。伏線を張り巡らせていますので振り返りにどうぞ。

(【登場人物と目次】はこちらをクリック)

小牧幸助さんの企画に参加しています。
毎週ありがとうございます。

#シロクマ文芸部
#ショートショート
#連載
#渋谷で17時
#創作大賞2024
#ミステリー小説部門

サポートして頂いたら有料記事を購入します!