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渋谷で17時(第2話)卒業の 🚌-5 【シロクマ文芸部】【夜行バスに乗って】

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「卒業のシーズンですね。景気はどうですか?」
「おかげ様でね。夢の国ツアーは連日、満席だよ」

生まれも育ちも帳面のーと町の広和は都内の大学に進学したのち、地方上級公務員試験に見事合格して、卒業してからは地元に戻ってきて県庁に勤務していた。県庁では観光課に配属となって3年が過ぎていた。

今日は地元のバス会社を訪問して、社長さんとこの夏のイベントの打合せを行っていた。一通りの打合せが終わりバス会社を後にしようとしたとき、一枚のポスターに目が止まった。

『春と風林火山号に乗って新宿に行こう!』

広和の趣味は演劇だった。大学時代の友人に薦められて演劇の沼にはまった。しかし、地元に戻ってからは年に1回行けるかどうかになっていた。地方出身者にとって交通費はバカにならないからだ。

だからこそ、行きたい演劇は絞りに絞っていて、それが今週末の土曜日に渋谷のBunkaguraで公演される演劇だった。

ポスターに目が止まったのは深夜バスの値段の安さだった。新幹線の自由席よりも3割ほど安い。前泊の宿代を考えれば更にお得だ。まだ、新幹線の切符は購入していなかったので相談してみることにした。

「社長さん、ほんとにこの値段で新宿まで行けるんですか?」
「そうだよ。人気のキャンペーンなんだ」

「まだ空席はありますか?」
「ちょっと待ってて。おーい、乗合のりあいさーん。空席があるか調べてくれる?」

乗合さんは深夜バスの運転手で今週末にいよいよデビューするようだ。調べてもらった結果、窓側は全て埋まっていて、中央のB列であればまだ空いているとのことだった。金曜日発の深夜バスは人気だからすぐに予約で埋まってしまうよと、商売上手の社長さんに促されて、その場で予約することに決めた。

深夜バスは金曜日の21時に出発して、土曜日の6時にバスタ新宿に到着する。よし、それなら前から行きたかった新宿にあるミステリーサークルでリアル脱出ゲームに参加しよう。オープンは10時からだが、それまでは快適クラブで仮眠をとればいい。

そのあと電車に乗って渋谷に行って…、そうだ、いいことを思いついた!新宿から電動キックボードを借りて渋谷に行ってみよう。電動キックボードで都内を走ったら気持ちいいだろうな。母校の大学やよく遊んでいた場所を巡ってみよう。演劇の開演時間は18時だから、渋谷には17時頃に到着すれば大丈夫だろう。

深夜バスのおかげで交通費は浮くし、充実した一日になりそうだし、この企画を考えてくれた人に感謝!

(つづく)



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毎週ありがとうございます。



豆島圭さんの企画にも便乗しています。
架空の町、帳面のーと町からバスタ新宿まで向かう夜行バスがテーマの物語をつくる企画です。週末に乗車する予定ですので予約させて頂きました😄


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