広瀬いくと(木俣はようやっとる)

中日ファン。 『中日新聞+』にて「発掘!B面ドラゴンズ史」連載中 https://p…

広瀬いくと(木俣はようやっとる)

中日ファン。 『中日新聞+』にて「発掘!B面ドラゴンズ史」連載中 https://plus.chunichi.co.jp/blog/hirose/ 『Re:minder』にて不定期掲載 https://reminder.top/profile/5731445468/?t=3

最近の記事

渦巻き投法

 昨日、痛い逆転負けを喫したあと、与那嶺監督は嘆いていた。「巨人戦や阪神戦は黙っていても選手たちがファイトを出してくれる。ところが他の球団だとちょっと気が緩むのかね」。これに近藤コーチも「下位のチームの取りこぼしを最小限に抑えねば」と同調した。星勘定のうえでは単なる一敗にすぎないが、これを克服しなければ優勝はない、そう確信しているからこそ余計に歯がゆいのである。  やがて雌雄を決することになるであろう巨人はこの時点で対中日、対阪神こそ2勝5敗と負け越しているが、下位相手にな

    • 宮崎中尉の戦陣訓

       阪神との死力を尽くした延長ゲームを戦った中日は休む間もなく3日午前に名古屋駅を出発。東京・上野から特急ひばりに乗り継ぎ、仙台に到着したのは午後7時すぎだった。翌日から杜の都で大洋と2試合を消化したあと、移動日を挟んで広島、名古屋とつづく6連戦が待ちうけるハードスケジュールが組まれている。  肉体的な疲労こそあれど大連戦を勝ち越しで乗り切り、気力充実の首位中日。対する大洋は目下4連敗中の最下位。前日も後楽園で一方的な負けゲームを演じており、新任の宮崎監督は早くも正念場を迎え

      • 無念の引き分け

         巨・神の連続はさみ打ちもようやく最終日を迎えた。2個の中止を挟んだとはいえ、強豪球団とのつばぜり合いに選手の疲労は限界を迎えつつあった。こんなときはスカッと短時間で勝って幕引きといきたいところだが、よりによって大連戦のオーラスは死力を尽くした総力戦となってしまった。  11回裏、2死一塁で高木守が投ゴロに倒れたとき、スコアボードの大時計はすでに制限時間の9時30分をまわっていた。最後まで見届けたスタンドのファンからため息が漏れ、ベンチ前の与那嶺監督は顔をしかめて天を仰いだ

        • 狸オヤジめ!

           巨人阪神の両球団で監督を務め、いずれも優勝に導いた藤本定義は、その卓越した知略と知謀、そしてドテンとした風貌から“伊予の古狸” と呼ばれた。その意味では現阪神監督の金田正泰も、なかなかの食わせ者と言えるかもしれない。なにしろこの日の試合前に中日の土屋亨総務をつかまえてこんなことを吹き込んだというのだ。 「あんまり張り切って勝ちなさんな。ペナントレースがおもしろないがな」  これが弱小球団の将の言葉なら情けなさを通り越して憐れみすらおぼえるが、阪神は2位にぴたりと付ける優

          今日はええ気分や

           プロ野球にとってスピードアップは永遠の課題である。49年度もシーズン前の監督会議でこの件が議題にあがり、試合時間短縮をできうる限り目指す旨の申し入れがなされていた。しかしこの時点でセパ全試合の平均試合時間は約2時間40分と目立った成果には至っておらず、むしろ頻繁な選手交代やサインの複雑化など野球が緻密化したことで3時間を超えるロングゲームの割合が増加する傾向にあった。  そんな中、日夜〆切に追われる新聞記者たちのあいだで絶大なる支持を得ていたのが中日、松本幸行だ。“ちぎっ

          ミスタージャイアンツの黄昏

           V10を目指す巨人が苦しんでいる。ここ5試合で1勝4敗。期待された先発三本柱(堀内、高橋一、倉田)のうちまともに稼働しているのは堀内だけ。ONのあとを打つ5番末次がチャンスで凡退を繰り返しているようでは、こうなるのも無理からぬことだ。しかしこの低迷の主要因が長島茂雄の衰えにあることは誰の目にも明らかだった。 「おまえみたいなヨボヨボ、辞めちまえ!」。そうした心ない野次がスタンドから飛ぶことも、めずらしい光景ではなくなった。今年限りで引退し、来季から川上に代わって監督に就く

          ミスタージャイアンツの黄昏

          純粋な熱情

           巨人、阪神との12連戦も折り返しを迎えた。ここまで5試合で3勝2敗という戦績は、ロードつづきであったことを考慮すれば上出来と言えるだろう。ところが大阪から名古屋に到着した中日ナインの周りには、どこか前日の敗戦が尾を引いているな重苦しい空気が漂っていた。9割がた勝てたと思った試合をよもや落としたのだから無理もない。ましてチームの軸である星野仙がやられたのだ。  こんなとき、ムードを変えるのは大抵外国人か、あるいは怖いもの知らずの若者と相場は決まっている。ちょうど中日には一日

          失った自制心

           試合後、バスに乗りこむ与那嶺監督、そして星野仙は憮然とした表情でノーコメントを貫いた。それほどショックな敗戦だったということだ。“魔の8回” ーー中日が乗っていたはずの波が突如として逆流をはじめたのは、8回裏のことだった。  中日は阪神先発、若生を打ちあぐねて6回まで散発2安打の無得点に抑え込まれていた。一方、中日の左腕、伊藤久は4、5回につかまり2点を献上した。ここまでは阪神ペースだった。  しかし7回、マーチンの第6号ホーマーを号砲に中日が反撃を開始した。井上が遊ゴ

          木俣さんのリードどおり

           つい10日前まで中日の周囲では投手力を訝しむ声が広がっていた。開幕から三本柱が崩れ、その後もしばらく彼らの不調がつづいたためだ。  ところがヤクルト戦で渋谷、星野仙、松本にそれぞれ勝ちがつき、巨人との2戦目では渋谷、星野仙の盤石リレーが機能して接戦の逃げ切りに成功した。するとどうだろう。あれだけ騒がしかった不安論はまるで申し合わせたかのように消え去り、今度は中日を持ち上げる記事が増えはじめた。 「はたでとやかく心配されることはなかった。ご覧なさい」。近藤コーチがそう言って

          ばくち

           甲子園にくると中日は弱くなる。とくに巨人戦のあとはガクンとくる。明確な原因は不明だが、たしかにここ数年、そうした傾向は顕著に出ている。昨年も大詰めの10月、中日はこの甲子園で3タテを食らい優勝戦線から叩き落とされている。  とりわけ上田二郎にめっぽう弱く、昨年は1勝8敗といいようにやられた。巷で “中日キラー” と呼ばれているのもダテではない。だから首脳陣も、この上田の存在には神経を尖らせていた。 「巨人に対するコンプレックスはみじんもない。あとは今の上昇ムードに乗って

          ヘラブナ釣り

           水入りとなった21日、東京・品川の雨天練習場で中日ナインは調整に励んだ。前夜は伏兵・小林に思わぬ苦戦を強いられたが、マーチンにリーグトップの5号ホーマーが出るなど打線の調子は上向きだ。「いやあ、こんどの雨は痛い。やりたかったですよ」という森下コーチの言葉も本心から出たものだろう。  そんな中、間近に迫った高木守道のある “記録” に注目が集まっていた。通算1500安打である。達成すれば史上29人目、中日では西沢道夫、葛城隆雄、中利夫しかいない記念碑だ。おととい2安打して残

          ストリーカーあらわる

           去る4月2日、アメリカ映画の祭典であるアカデミー賞の式典中に全裸の男性が乱入。その様子が全米ネットを通じて生中継で放送されてしまった。  この “珍事” は日本の報道でも取り上げられ、大きな波紋を呼んだ。米英から発祥した“ストリーキング” と称されるこの行為は国内でも各地で広まっており、かねて球場での発生が不安視されてきた。  その懸念がまさにこの夜、現実のものになった。後楽園球場でおこなわれた巨人×中日1回戦。ちょうど巨人が攻撃していた8回裏、午後9時11分のできごと

          風邪っぴきバッテリー

           ノーヒットノーランのラン “Run” は得点を意味する。したがってヤクルト先発の浅野啓司は、初回にその権利を失っていたことになる。  初回の攻撃を振りかえろう。まず先頭で歩いた高木守道がすかさず二盗。これが大矢捕手の悪送球を誘い、労せず三塁へ。このあと谷沢の左犠飛であっさり中日が先制した。よくある “ラッキー” ではあるが、この1点に中日は助けられた。 「心配していたとおりだよ。きのうまで打ちすぎたしね」。井上コーチが言うように、連夜の二桁安打を打った打線がこの日は5回

          やっと片目があきましたわ

           ヤクルトの先発、渡辺孝博は対中日に絶対の自信を持っていた。一昨年の4月30日、新人だった渡辺孝は中日打線を手玉にとり、あれよあれよと完封を飾った。これが彼にとってプロ初勝利でもあった。そこから都合2年間でかせいだ15勝のうち、8勝を中日からあげている。 「どういうわけですかねえ。やっぱり相性がいいのかな」。そう惚(とぼ)けるが、中日打線の印象について聞かれるとメガネの奥に本心が透けてみえる。 「誰をマークするかといっても、深傷を負った覚えがない」  登板予定だっ

          ファンタスティック・ベリーグー!

           信用は一日にしてならず。しかし、その男はたった一夜にして評価をまるっきり覆してみせた。  今年はじめてナイター開催でおこなわれた16日の中日球場。名古屋地方気象台によると午後6時の気温は16.1度と、まだ肌寒さの残る中での一戦となった。観客は持参した毛布やコートにくるまり、売店ではビールより熱燗がよく売れた。とりわけ雨上がりのナイターは気温表示よりも冷え込みを感じるものだ。  だが2時間17分の試合を終えたあと、寒さに身を縮めているファンなどただのひとりもいなかった。い

          ファンタスティック・ベリーグー!

          第四の男

           交通ゼネストで全試合が中止になったおととい11日のプロ野球。各地のゴルフ場が満員御礼に沸くなど「それ来た」とばかりに余暇を楽しむサラリーマンに対し、プロ野球選手に “スト休日” はなし。各球団が練習に励んだ。  そんな中、腹の虫がおさまらないのが “カネやん” ことロッテの金田正一監督である。「ピッチャーが余っとるんや。やりゃあ必ず勝てたんだ。バカタレめ。ストなんかやりやがって」。なるほど、成田、金田留、木樽、八木沢と揃う充実のラインナップを見れば、そう嘆きたくなるのも当