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一文無しからのスタート

 勝率五割に逆戻りした中日にまたしてもアクシデントが襲った。雨でゲームが流れた11日、遠征先の東京で渋谷が腰骨の鈍痛を訴えたのだ。病院で診察を受けた結果、レントゲン撮影などでも特段の異常はなく “筋肉痛” と診断されたという。しかし近藤コーチは「無理をさせてもいい結果は絶対に出ない」と渋谷を名古屋に帰すことを決断。巨人戦は渋谷ぬきで戦うことになった。

「それにしても、どうしてこう次々悪いことが重なるかね」。近藤コーチが嘆くのも無理はない。渋谷は1日に投げて以来、この巨人戦を見据えて調整を進めていたのだ。左肘痛も回復し、ようやく万全の状態で三本柱を投入できるはずだった。その矢先のアクシデントだから、首脳陣も頭が痛い。

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 一文無しからの再スタートを託されたのは松本だった。このところ中3日つづきで調子を落としていたが、今回は中5日で休養じゅうぶん。序盤から “ちぎっては投げ” の早いペースで巨人打線を翻弄し、申し分ない立ち上がりを見せた。

 一方、巨人先発の堀内はここ2試合つづけてノックアウトを食らうなど調子を落としていた。この日も初回、1死一、二塁から大島の中前打で中日が先制すると、早くも一塁側内野スタンドとライトスタンドの間にあるブルペンでは小林がウォーミングアップを始めていた。

 “V9のエース” といえば聞こえはいいが、必ずしも堀内には絶対的な信頼があるわけではない。そして敵軍から見ても、やはり難攻不落の投手ではないのだ。だから4回に河埜のタイムリーで巨人に逆転されても、中日ベンチは “必ず勝てる” という活気に満ちていた。

「1点ならいつでも返せる。気を引き締める意味からシャープにいこうと話したんだ」。その井上コーチを中心に、7回の攻撃が始まる前に中日ナインが円陣を組んだ。逆転劇が幕を開けたのはその直後だった。先頭の谷沢が中前へクリーンヒットを放つと、つづくマーチンはあわや本塁打かというフェンス直撃打で一、三塁。「堀内? バッティングピッチャーね」。こんなことを言われているのだから堀内もたまったものじゃない。

 その後、大島のこの日2本目のタイムリーで同点に追いつくと、なおも手を緩めず2死一、二塁。ここで与那嶺監督が動いた。好投の松本に代えて広野を打席に送ったのである。今季は代打ばかりで13打数2安打と湿っているが、堀内との相性を考慮して勝負を賭けたのだ。この広野の強い打球が王のミットを弾くラッキーな内野安打になって満塁。さらに9番ウィリアムが初球を中前へ運んで一挙に試合をひっくり返したのだから、みごとに采配的中ということになる。

 松本交代について与那嶺監督は「星野仙の調子がよかった。星野仙がいたからこそ思いきって勝負手が打てた」と説明した。先発なのか、抑えなのか。開幕から二ヶ月がすぎてもいまだにはっきりしない星野仙の処遇であるが、少なくともベンチにとってはブルペンに星野仙がいることで采配の幅が広がるのは間違いないようだ。相手としても松本-星野仙の豪華リレーをやられてはお手上げだろう。

 自律神経失調で倒れた稲葉もすっかり元気になって練習復帰し、三沢も一時のスランプを脱したように思える。まだまだ見通しの立たない状況はつづくが、ようやくトンネルの出口が見え始めたのも確かだ。

「不思議だねえ。巨人とやるとみんなすごくハッスルするの。渋谷の故障は痛いけど、稲葉、三沢もよくなってきたからこれから出直しですよ。シーズンはこれからよ」。再スタートの貯金1。軽い足取りでバスに乗った与那嶺監督の表情も久々に明るかった。

巨2-4中

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