ＪＷ５５８　改名をしよう

【伊勢遷宮編】エピソード17　改名をしよう

第十一代天皇、垂仁天皇すいにんてんのうの御世みよ。

紀元前4年、皇紀こうき657年（垂仁天皇26）。

天照大神あまてらすおおみかみ（以下、アマ）の鎮座地ちんざちを求め、倭姫やまとひめ（以下、ワッコ）一行は、船旅ふなたびを進めていた。

登場人物一覧表（倭姫の一行）

登場人物一覧表（三人の大夫）

そして、ある川の入いり江えに入はいっていく。

するとそこに、一人の男が待ち受けていた。　

ワッコ「な・・・何者なにものじゃ？」　

男「『おで』か？　『おで』は、佐美川日子さみつひこだっちゅうの。『さみっち』と呼んでくれい。」　

ワッコ「し・・・して『さみっち』よ。この川の名は何なんぞ？」　

さみっち「川の名前か？　五十鈴川いすずがわの河尻かわじりだっちゅうの。」　

地図（五十鈴川の河尻）

カット「河尻とは、河口かこうのことにござりまする。」　

さみっち「前回登場した、佐見都日女さみつひめと、どういう関わりが有るのかって？　分からないっちゅうの。」　

ねな「聞いてないことまで、答えてくれるのね。」　

ワッコ「では、音無山おとなしやまの麓ふもとに社やしろを建たてましょうぞ。」　

地図（音無山）

アララ「あらら・・・。そういうことになっちゃった。」　

カーケ「この社が、江えの社やしろなんだぜ。」　

オーカ「二千年後の江え神社じんじゃにあらしゃいます。」　

江神社（鳥居と拝殿）

乙若おとわか「祭神さいじんは、三柱さんはしらにござる。」　

インカ「すなわち、長口女命ながぐちめ・のみこと、大歳御祖命おおとしのみおや・のみこと、倉稲魂神うかのみたまのかみにござりまする。」　

ワッコ「倉稲魂神うかのみたまのかみは、食物の神様じゃな？　されど、残りの二柱ふたはしらは聞いたことが無いのう。」　

ワクワク「地元じもとの土地神とちがみ様さまと言われてるよ。」　

音主おとぬし「ちなみに、長口女命ながぐちめ・のみことですが、『皇大神宮儀式帳こうたいじんぐうぎしきちょう』によると、エピソード547で紹介した、天須婆留女命御魂あめのすばるのみことのみたまの娘との由よし。」　

ワッコ「そ・・・そうか・・・。」　

くにお「鎮座地は、二千年後の地名で言うと、三重県みえけん伊勢市いせし二見町ふたみちょう江えにござる。」　

地図（江神社）

するとそこに、一人の女がやって来た。　

女「あたいは、荒崎姫あらさきひめよ。『アラサー』と呼びなさい。」　

ワッコ「し・・・して『アラサー』よ。この国の名は何なんぞ？」　

アラサー「皇太神すめおおみかみの御前みまえの荒崎あらさきよ。」　

ワッコ「なっ！？　なんじゃと！？」　

乙若おとわか「如何いかがなされました？」　

ワッコ「お・・・恐おそろしや・・・。『アマ』様の御幸みゆきの御前おんまえが『荒あらし』とは・・・。」　

乙若おとわか「た・・・たしかに、言われてみると・・・。」　

アラサー「仕方しかたないでしょ。荒々あらあらしい波が押し寄せる処ところなんだから・・・。」　

ねな「ちょっと！　だからってね、言って良い事と悪い事が有るのよ？」　

アラサー「だから、仕方ないって言ってるでしょ！」　

ワッコ「も・・・もう良い。こうなれば、名を改あらためるまでじゃ。」　

アラサー「えっ？　そんなこと出来できるの？」　

ねな「当たり前でしょ。なんてったって『ワッコ』様なのよ。」　

ワッコ「では、これよりは荒崎あらさきを改め、神前かむさきとする！」　

おしん「こうして、神前かむさきの社やしろが建てられたんだべ。」　

アラサー「神前こうざき神社じんじゃのことよ。」　

くにお「鎮座地は、何処いずこになるのじゃ？」　

音主おとぬし「かつては、伊勢市いせし二見町ふたみちょう松下まつしたの神前岬こうざきみさきに鎮座ちんざしていたとの由よし。されど・・・。」　

地図（神前岬）

くにお「されど？」　

アラサー「明治時代になって、同じ二見町ふたみちょう山下やましたに有る、小井戸口山こいどぐちやまに遷座せんざしたのよ。」　

地図（神前神社）

ねな「いわゆる、神社合祀令じんじゃごうしれいってヤツね。」　

アラサー「ちなみに、祭神さいじんは、あたいよ！」　

カット「ところで、二千年後の地図を見てみると、許母利こもり神社じんじゃと荒前あらさき神社じんじゃが同座どうざしておるが、これは、どういうことなのじゃ？」　

神前神社・許母利神社・荒前神社（鳥居と拝殿）

アラサー「荒前あらさき神社じんじゃの祭神も、あたいよ。そして、許母利こもり神社じんじゃの祭神は、粟嶋神御魂あわしまのかみのみたまと言って、あたいと同じく、この海岸を守る神よ。荒あらぶる『あたい』を抑おさえるために祀まつられたみたいね。」　

旅は、まだまだ続くのであった。