聞耳牡丹の詩講義録

詩が大好き聞耳牡丹です

聞耳牡丹の詩講義録

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最近の記事

配達夫

今日の詩人はBilly Collinsの幼心と憂鬱が溶け合った美しい詩です。 DeliveryMoon in the upper window, shadow of my crooked pen of the page, and I find myself wishing that the news of my death might be delivered not by a dark truck nut by a child's attempt to draw tha

    • シンタックス

      聞耳です。今日紹介するのはキャロル・アン・ダフィー (Carol Ann Duffy 1955-) です。現在のイギリスの桂冠詩人であり、マンチェスターメトロポリタン大学で現在もWriting Courseの指導をしている彼女は、同性愛者であることを早くから告白し、愛やセックスをテーマとした詩も数多く生み出しています。以下もまた官能的な詩のひとつです。 SyntaxI want to call you thou, the sound of the shape of the

      • 頭上の鳩

        聞耳です。今日紹介するのは凡庸な言葉遣いとテーマだけれど、なんか深い意味が隠されている気がする、ピーター・ヴァン・ライアー (Peter van Lier 1960-) の作品です。そこに在ることを愛とともに眺めている筆者のどこまでも普通な詩を楽しみたい。 Above Me a DoveAbove me a dove in flight. A slight movement in branches, the rustling of the leaves is nice. S

        • 書きすぎた女

          聞耳です。今日もしつこいんですけれどケイ・ライアン (Kay Ryan) の詩を紹介します。色々やらねばならないことや、きちんと向き合って取り組まなければならない心配事などがあるときに、普段使っていない部分の脳みそを使いたい。そんな時は彼女の詩が(その翻訳が)ぼくにとって一番の清涼剤になるのです。 The Woman Who Wrote Too MuchI have written over the doors of the various houses and store

          愛の道

          合気道のクラスに行く。 みんな一列に並んで正座。 先生はイギリス人。 生徒もみんなイギリス人。 日本人はぼくと 道場の奥に飾られた植芝翁先生の写真だけ。 スウ先生、アンディ先生、ピエロ、タージ、ファビオ、アントン。 みんな袴を着けた有段者。 ぼくは始めたばかりの初心者。 ぼくのからだはひとまわりも、ふたまわりも小さい。 スウ先生は道場主。 この道40年以上のマスター。 合気道は力を使いません、ナイフとフォークを使うだけの力で十分です。 スウ先生は真顔で言う。 でもみんなの腕

          ひそひそ声と柔らかい沈黙

          ぼくらは墓地にいる。 穏やかな風。 一面の青空。 広々とした線路沿いの土地に 立ち並ぶ十字架。 花に囲まれ、手入れの行き届いたお墓もあれば、 荒れ果てて野草に埋もれたお墓もある。 墓地を突っ切る緩やかな上り坂を ぼくらは無言で歩いている。 子供の頃、 じいちゃんが亡くなった。 生まれて初めてのお通夜。 ひそひそ声で話す黒ずくめの大人たち。 父さんは何度話しかけても黙ったままで 母さんはぎゅうっと痛いくらいにぼくの手を握りしめた。 醸し出される張り詰めた雰囲気に ぼくは体を強

          ひそひそ声と柔らかい沈黙

          ぼくの友達レイモンド

          大学で待ち合わせをする。 いろんな国の学生たち。 見たことのない装い。 嗅いだことのない匂い。 行き交う人々をすり抜けて レイモンドがやってくる。 やあ元気?と満面の笑顔のレイモンド。 元気だよ、と笑顔で答えるぼく。 司書員のレイモンドは踊るのが大好き。 バレエやヒップホップやワッキング。 舞台でも踊るし、オーディションにも挑戦している。 練習のしすぎで右ひざを痛めてしまったらしい。 少しは休んだらってぼくが言うと、 体が踊りたがるのを止められないんだ!ってレイモンド。

          ぼくの友達レイモンド

          世界の絶えずわからない問題

          リビングでテレビを見ていると グレースがやってくる。 グレースはフラットメイトのポーランド人。 家政婦の仕事をしている。 いやな天気ね、と言って彼女はキッチンに消える。 静かな雨。 濡れたレンガ。 鳥の鳴き声。 枯れた春の昼過ぎ。 グレースはコーヒーを手にリビングに戻ってくる。 何を見ているの?と尋ねて、 ぼくの隣に座るグレース。 テレビではネクタイを締めたおじさんと メガネをかけたおばさんが声を荒げて討論している。 なんだろう?と返すぼく。 知らないわ、とコーヒーを啜る彼

          世界の絶えずわからない問題

          選択肢

          聞耳です。今日もみんな大好き、ケイ・ライアン (Kay Ryan) の詩を紹介します。これで3回目の紹介となりますが、今日の詩もまた選び抜かれた哲学的な言葉が、人生の真実の一端を紐解いてくれます。高級ブランド品のような、気品に満ちたケイ・ライアンの詩をご堪能ください。 All You DidThere doesn't seem to be a crack. A higher pin cannot be set. Nor can you go back. You hadn't

          意味論

          川沿いの華奢なカフェ。 小さなテーブルと簡素な椅子。 仕事帰りの人。 お酒を飲む人。 新聞を読む人。 みんな西陽にすっぽり包まれている。 茜に乱反射する川面は無数の蝶の群れみたい。 週初めの夕方に ぼくはビジネス日本語を教えている。 生徒はロバート。 商社に勤めるエリート。 磨かれた靴。 糊のきいたワイシャツ。 左腕にはロレックスの時計。 敬語ハホントウニ、ムズカシイト、オモイマス。 ロバートは笑う。 神戸と大阪で働いていたこともあるロバート。 取引先は日本のカワサキさん。

          名前の知らない鳥と男の人の笑い声

          公園にでかける。 人がいっぱい。 マラソンする人。 自転車をこぐ人。 スケートで走り回る人。 親子連れも、犬連れもたくさん。 湖のほとりを歩くと、 白鳥や鴨やアヒルが水面でゆらゆら揺れている。 名前の知らない鳥が水にもぐって餌を探している。 それをぼくらはベンチに座って眺めている。 春の日差しを浴びながら。 姿の見えない不安はどこに隠れているんだろう? とぼくは考える。 降りそそぐ陽光の中に? よちよち歩きの赤ん坊の背中に? 雲ひとつない青空が ぼくの気分を滅入らせるのかな

          名前の知らない鳥と男の人の笑い声

          冬の朝

          ベーコンの焼ける匂い。 キッチンに響きわたる油の跳ねる音。 おさえたボリュームで流れるラジオ。 窓の向こうには水を抜いたプールみたいな青空が広がっている。 かき混ぜた卵にミルクを混ぜ、 十分に温めたフライパンに勢いよく流しこむ。 ジューッと焼ける卵の香ばしい匂い。 ぼくはコーヒーを2つ用意する。 ひとつはぼくに、ひとつは妻に。 そうだ、こんな天気のいい日には動物園に行こう。 キリンやゴリラやゾウを見に行こう。 塩とコショウを振る。火を止める。 お皿をテーブルに並べる。 寝室

          聞耳である。今日は朝から珍しく青空が広がり、以前から行ってみたかったロンドン漱石博物館 (http://soseki.intlcafe.info/) を訪れた。夏目漱石はロンドンに1900年から約2年間滞在し、大学の授業や個人講義を受けながら執筆活動を続けた。絶えず続く金銭不足、孤独感、重責などから帰国の三ヶ月ほど前になると強度の神経衰弱に陥り、漱石の異常さに気づいた友人が文部省へ「夏目狂セリ」と伝聞を打つほどだったそうだ。 後年になって「ロンドンに住み暮らしたる二年は尤も

          日本の樹々のための199の日本名(4)

          聞耳である。今回も懲りも懲らずにサシャ・オーロラ・アクタ (Sascha Aurora Akhtar 1976-)である。引き続き難解で怪しげな内容だが、不思議な真実を語っているようで止められないサシャ・オーロラ・アクタの世界。今日また新たな手がかりを得た気がするので紹介したい。 199 Japanese Names for Japanese TreesParallel displacement the trajectory adorn the maidenshape

          日本の樹々のための199の日本名(4)

          日本の樹々のための199の日本名

          聞耳である。友人の指摘で思い出したが、宮崎駿監督の原作漫画「風の谷のナウシカ」のなかで、ナウシカにオーマという名前を与えられた巨神兵が力を取り戻す、というシーンがある。オーマという名前はエフタル語で「無垢」という意味で、名前を与えられたオーマはナウシカを母のように慕い、彼女のために戦い続けるという物語であった。名前を与えるという行為は、単に社会的な行為だけではない。物理的に生命を与える行為にもなるのかもしれない。今日もまた詩人サシャ・オーロラ・アクタ (Sascha Auro

          日本の樹々のための199の日本名

          日本の樹々のための199の日本名(2)

          聞耳である。前回に引き続きサシャ・オーロラ・アクタの最新刊「199 Japanese Names for Japanese Trees」を紹介したい。スーフィー教に伝わるという神秘的力を有する99の名前と隠された100番目の名前。これに習い、日本の植物に新たに199個の名前を産み出すことで、世界の真実を探り出そうとするサシャ・オーロラ・アクタの詩作的試み。 彼女の詩作の真意を理解するために、フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト (1796-1866) の功績を知らなけれ

          日本の樹々のための199の日本名(2)