見出し画像

選択肢

聞耳です。今日もみんな大好き、ケイ・ライアン (Kay Ryan) の詩を紹介します。これで3回目の紹介となりますが、今日の詩もまた選び抜かれた哲学的な言葉が、人生の真実の一端を紐解いてくれます。高級ブランド品のような、気品に満ちたケイ・ライアンの詩をご堪能ください。

All You Did

There doesn't seem
to be a crack. A
higher pin cannot
be set. Nor can
you go back. You
hadn't even known
the face was vertical.
All you did was
walk into a room.
The tipping up
from flat was 
gradual, you
must assume.

選択肢

わずかの隙間も
見当たらない。これ以上
先に進むことは
できない。戻ることも
許されない。こんなにも
切り立った壁だとは
知る由もなかった。
その部屋に入るしか
選択肢は残されていなかった。
緩やかな登り、
麓からはそう
思えたのに。

*****

軽い気持ちで始めたけれど、いつの間にか抜け出せなくなって立ち往生してしまうことがある。振り返れば偶然としか思えない出来事が、現在の奇異な運命を決定づけたのだと、不思議な思いで過去を振り返ることがある。何事も些細なきっかけや偶然で人生の道はかたどられていく。その堆積が歴史であり、生物の進化だと思えば、壮大すぎて慄いてしまうが、実際に出来ることはその時々の風向きに従うだけである。恐ろしい未来が待っていたとしても出来ることは壁に手をかけるだけ。厳しく読むものを突き放すケイ・ライアンの言葉に、ぼくはなぜか大変勇気付けられるのです。

聞耳牡丹

#詩 #散文詩

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?