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日本の樹々のための199の日本名

聞耳である。友人の指摘で思い出したが、宮崎駿監督の原作漫画「風の谷のナウシカ」のなかで、ナウシカにオーマという名前を与えられた巨神兵が力を取り戻す、というシーンがある。オーマという名前はエフタル語で「無垢」という意味で、名前を与えられたオーマはナウシカを母のように慕い、彼女のために戦い続けるという物語であった。名前を与えるという行為は、単に社会的な行為だけではない。物理的に生命を与える行為にもなるのかもしれない。今日もまた詩人サシャ・オーロラ・アクタ (Sascha Aurora Akhtar 1976-)の作品である。

199 Japanese Names for Japanese Trees

& when I see the trees again

I will know them
For their bark touch
I hold
ignited
My shiny, shiny
blue

My
eviscerated
My darling catchfire
My Shams

My heart is

Ajar
a blue mirror
of nightshade
mornings stolen
from sleepshine

I disassemble gracefully
each step a rehearsal
just imagine

a grassland of flying fish
a dewdrop of grasshoppers

He said dreams

If a word is writ,
does it become
Or do I crack the cage
of capacity

His face has blown off
Educate me, I feel it
Most of us sit hunched over,
Close to the ground

(テキストの配置は簡略化しています)

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日本の樹々のための199の日本名

樹々にふたたび目をやれば

樹々のことはすぐに知れる
その樹皮
少しだけ間をおいて
燃えあがる
きらめいて
マイブルー

マイ
換骨奪胎
マイ愛する火取り男
マイ詐欺師

わたしの心は

うっすら開いていて
有毒ナスの
青鏡
ツヤ出し眠りから
盗まれた朝たち

優美に解体
ひとつひとつの動きは
想像力のリハーサル

トビウオの群れがつくる草原
一匹のバッタと一滴の露

彼はそれを夢だと言う

もし言葉が令状だったら
言葉は言葉の
わたしは言葉の
意味を脱獄できるかしら

彼の顔は吹き飛ばされて

教えてよって、言ってるみたい

ほとんどの人は地面に向かって
かがみこんでいる

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サシャ・オーロラ・アクタは樹々に次々に名前をつける「換骨奪胎」「火取り男」「ツヤ出し眠り」。ユーモアのある独創的な名を与えられた樹々はより生き生きと輝き、世界にアイデンティティを確保する。だが、彼女が名前をつけているのは樹々だけではない。名前を与えられていない感情や思いつきにも、次々に言葉を与えて世の中に可視化させている。それがまさに彼女の詩作のようだ。サシャ・オーロラ・アクタに名前を与えられた感情は誰かに認められ、共感してもらえるかもしれないし、誰にも認めてもらえないかもしれない。人間も感情の存在も同じようなものなのかもしれない。

#詩 #散文詩

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