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名前の知らない鳥と男の人の笑い声

公園にでかける。
人がいっぱい。
マラソンする人。
自転車をこぐ人。
スケートで走り回る人。
親子連れも、犬連れもたくさん。
湖のほとりを歩くと、
白鳥や鴨やアヒルが水面でゆらゆら揺れている。
名前の知らない鳥が水にもぐって餌を探している。
それをぼくらはベンチに座って眺めている。
春の日差しを浴びながら。

姿の見えない不安はどこに隠れているんだろう?
とぼくは考える。
降りそそぐ陽光の中に?
よちよち歩きの赤ん坊の背中に?
雲ひとつない青空が
ぼくの気分を滅入らせるのかな。
買ったばかりのサンドイッチにかぶりつくと
押しだされたクリームチーズが、にゅっと飛びだした。

ぼくらは公園の片隅に桜の木を見つける。
蕾はホラー映画を見る子どもたちみたいにぎゅっと身をちぢこませている。
一分咲きかな。
ぼくらは桜の木の根元に腰かける。
無言で通り過ぎる通行人と犬と虫。
どこかで知らない男の人が大笑いしている。
未来は壁みたいな厚い霧に覆われて
何が起こるかちっともわからない。
でもいいじゃないか。
好きなことがひとつでもあるんだから。

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聞耳です。今日のロンドンはとても天気が良く、Hyde Parkに行きました。長く鬱々とした冬をようやく抜け、ぽっかり現れた春の日和を楽しもうと、大勢の人々が公園に繰り出していました。

色とりどりの花がそこかしこに咲いていましたが、ピンク色の枝木を見つけるとどうしても吸い寄せられてしまうのは、なにかしらのノスタルジーかもしれません。広大な公園の片隅に桜の木を見つけて写真を撮っていると、他に幾組かの日本の方もやって来ました。

先週から夏時間に切り替わったロンドンは、これからますます日が長くなり街全体が色づいていきます。明るい光を出来るだけ浴びて穏やかに暮らすのがひとまずの日課です。

聞耳牡丹

#詩 #散文詩






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