見出し画像

日本の樹々のための199の日本名(4)

聞耳である。今回も懲りも懲らずにサシャ・オーロラ・アクタ (Sascha Aurora Akhtar 1976-)である。引き続き難解で怪しげな内容だが、不思議な真実を語っているようで止められないサシャ・オーロラ・アクタの世界。今日また新たな手がかりを得た気がするので紹介したい。

199 Japanese Names for Japanese Trees

Parallel
displacement

the trajectory
adorn

the maidenshape
form

I am pre-modern eyes
seeing through metamodern skin

the drop of years
a fuller infraction
say it over and over again

Make it delicious
without tasting it

Your image constructs
a miraculous way to die
If irons were daughters
of circumference
You have the gift
amaze it
Grow creatures of consecrated
gas
Arm horrors with nightmares
& violent flowers
edging along the perimeters
of desire

(テキストの配置は簡略化しています)

*****

日本の樹々のための199の日本名

平行にのびる
感情転移

曲線が
飾りたてる

乙女の体つき
形体

わたしは前近代の目で
超近代的な彼女の肌を見通す

年月のひとしずく
ルールに従わない紡ぎ女は
なんどもなんども同じことを言う

味わったこともないのに
なんて美味しそうなのだろう

あなたの想像力が
奇跡的な死の迎えかたを教えてくれる
鉄の娘
円周上に並べられた娘
あなたの贈り物に
驚かされてばかり
聖なるガスのお化けが
むくむく膨れあがって
悪夢と乱暴な花で
武装する
欲望の周囲の長さを
縁取りながら

****

樹々の体つきはたしかに女性の肢体を思い起こさせる時がある。くねった樹々は魅力的で、子供でなくても飛びついてしがみついて登りあがりたい気をおこさせる。立ち並ぶ幹は年端もいかない「紡ぎ女」たちのようだとサシャ・オーロラ・アクタは言う。産業革命時代のイギリスは紡績工業が盛んで、十代の乙女たちは工場で朝から晩まで働いた。恋愛や食の欲望にはちきれんばかりの少女の集団。甲高い声で笑いあう女たちの声が樹々の間にこだましている。

わたしはこの詩を訳しながら、手塚治虫の火の鳥・宇宙編を思い出した。無人の星に赤子を抱いて流れ着いた女が、我が子を育てるために樹にメタモルフォーゼをする話だった。赤子は樹にしがみついて泣きわめき、枝の先から垂れるミルクを飲む。なんとシュールで美しく恐ろしい話だったか。子供の時にはじめて読んでわたしは怯えて泣き出すほどだった。女と樹のイメージはこうして美しくも恐ろしく形作られたのだ。

聞耳牡丹

#詩 #散文詩


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?