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中国人の女の子がジャングルに就職できるまで励まし続ける話。

「頑張ってる中国人の女の子がいるから助けてあげてほしい」

上司からそう言われて即座に「分かりました」と答えた。私が勤めている会社は生命保険会社であるから、営業職を常時募集している。私の上司が面接し「見込みあり」と判断された方は選考ステップを上がっていくのだが、もちろん「見込みなし」と判断される方もいる。

その中国人の女の子は20代中盤で、中国国内のとある民族にルーツを持つ子だった。中国の大学を卒業し、日本語を学び、都内で仕事をしていたものの、札幌に引っ越してきたらしい。そんな経緯でうちの会社に応募してきたが、残念ながらご縁がなかったようだ。

「どんな方なんですか?」

事前に情報を入れておく必要があるから、上司に聞いた。

「日本語はペラペラなんだけど、札幌には知り合いはいなくて、ガッツはあって人当たりもいいんだけど、保険は難しいだろうなって感じかな」

「なるほど。その子はなぜ札幌に?」

「それが、彼氏を追いかけて札幌に来たらしい」

「…そういうこともありますわな」


私の仕事は生命保険外交員であるが、前職は人材業界にいた。札幌市内の様々な企業とのコネクションがある。履歴書や職務経歴書の書き方や、地元企業の選び方など、法律に抵触しないレベルでのアドバイスが出来る。

もちろん、生命保険外交員であるから、支援をしてあげて何かしらの保険契約を預かっておいで、というのが上司のモクロミなのだが、そんなことは二の次だ。それが目的化すると途端にダメになる。


早速、その子に連絡をして会うことになった。
場所は札幌駅西改札の宮越屋珈琲という喫茶店だ。


お店に行くとその入り口に、やけに長身で、まんまるな眼鏡をかけた女性が立っていた。たぶんこの人だ。

「あ、チョウさんですか?」
※以下チョウさんとしておく

「あ!はい!そうです!〇〇さんデスネ!」

「よろしくお願いします」

「はい!よろしくお願いシマス!」


たしかにガッツがあふれているし、日本語はペラペラだ。身長は170㎝くらいある。ニコニコしていて、初対面のとき特有の仰々しさもない。親しみやすさが背後からオーラとして出ている。


喫茶店に入って、チョウさんに、札幌に来た経緯やどんな企業に応募しているか、今の悩み事は何かを聞いてみた。

・前職は都内で営業をやっていたこと
・今の彼氏は前職時代の取引先の人であること
・彼氏には電話の「声」だけで恋に落ちたこと
・その彼氏と同棲していること
・札幌には友だちがいなくて不安なこと
・食品会社やIT企業で働きたいこと
・ビザの問題で2か月以内に就職しなければ、中国に帰らなければならないこと


うちの会社に応募してきたのは「名前を聞いたことがあるから」らしい。履歴書と職務経歴書のデータを持ってきてくれていて、そのデータを見てみる。内容がそこらへんの日本人よりはるかに素晴らしい。それだけで優秀さが伝わってくる。唯一、顔写真の画像が横に縮んでしまっていたので、それを直してあげたら喜んでいた。


中国人を日本企業が雇用することは難しい。

都内であれば問題なさそうであるが、ここは札幌だ。中国人を雇用することに躊躇する企業の方が多い。チョウさんを連れて、いろんな企業にアドバイスを求めに行った。そのどれもに「難しいでしょうねぇ」と言われた。そう言われる度に落ち込むチョウさんに「きっと大丈夫」と励ました。この話は今から1年以上前の話なので、パニック真っただ中だった。中国人を雇用するハードルが低そうなホテル業も募集を停止していた。


チョウさんと出会ってから1か月が経つ頃、

「もうダメかもしれません、札幌は厳しいネ」

と、ポジティブなチョウさんも諦めムードになっていたから「いや、きっとなんとかなる」と励ました。








結果から言うと、
チョウさんは就職に成功した。


あの企業に正社員で就職した。
ジャングルのような名前のあの企業に。

アメリカのシリコンバレーの
GAFAMのどれかに。

それはそれは華麗に。



チョウさんの力である。
私は何もしていない。
私は励ましてあげただけ。


個人の意見だが、もし、周りに落ち込む人がいたら、励ますだけでいいと思う。話を聞いてあげるだけでいいと思う。「大丈夫」と言ってあげるだけでいいと思う。その人の心の中にあるロウソクの火が消えないように、そっと手でおおってあげるだけでいいと思う。




「〇〇さん!〇〇さんはいい人だから、札幌にはいい人がきっとたくさんいるんだネ!この恩はずっと忘れないヨ!今度、私の彼氏にも会ってほしいネ!」




後日、チョウさんの自宅に招待されて、その彼氏とチョウさんと私の3人で火鍋をつついたときに「どうしてあんなに熱心に助けてくれたんですか?」と彼氏に聞かれることになるんだけど、その話はまたいつか書こうと思う。








〈あとがき〉
以前、一生懸命な人を応援したくなる心理についての記事を書きましたが、チョウさんを励ましたのも同じ理由だと思います。熱心な人、助けを求めてくれる人を助けたくなるものですよね。それにしてもチョウさん、ジャングルに就職できてよかった。今日もお読みいただきありがとうございました。




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