妻をBTSの沼に落としてみた。
妻がARMY(アーミー)になった。兵隊になったわけではない。ARMYとは7人組K-POPアイドルグループ「BTS」のファンの総称である。
BTS。
韓国発の男性アイドルグループである彼らは、いまや世界的な人気を博しており、ある時は国連でスピーチし、またある時はアメリカのバイデン大統領に謁見してスピーチし、と、もはや韓国に止まらず、ワールドワイドに活躍するグローバルスーパースター。
私の妻は、いわゆるヲタク気質を持っている。
V6の岡田くんから始まり、KAT-TUNの亀梨くん、ケミストリーの堂珍さんに行ったかと思えば、AAAの西島くんにハマり、果てはKing&Princeの平野くんを追いかける破壊的なヲタク。
…だったらしい。
私と結婚した頃にはすっかりそのヲタク熱は冷めていて、私が転職をすると言い出せば、
「転職? いっちゃえいっちゃえ!
旦那なら絶対大丈夫!いけるよ!」
と応援してくれる頼もしい妻になっていた。
がしかし、彼女の中にグツグツと煮えたぎるヲタ気質というのはそう隠しきれるものではない。
ある日私がYouTubeで「東海オンエア」を見て腹を抱えて笑っていたところ「それだれ?」と言ってきた数週間後、妻は東海オンエアのてつやにどハマりして「てつやはこれだから愛されるんだよ」と言って笑っていた。
またある日、私がYouTubeで「NARUTO」を見ていたところ「NARUTO?忍者でしょ?」と言っていたから、根気強くNARUTOの素晴らしさを語った。数週間後、自宅に帰ったらNARUTOが全巻揃えられ、自来也(NARUTOの師匠)が遭難する回を見て、妻はオエオエと涙を流していた。そこにあざとさはない。
またある日、私がアニメ「鬼滅の刃」を見ていたところ、妻が「え?流行ってんの?」と言うもんだから、熱心なジャンプ読者として、かの作品の素晴らしさを説明した。数日後、鬼滅の刃の伝説の回を2人でみていると妻が隣でソワソワしたかと思えば「いっけー!炭治郎ー!!!」とソファの上に立って竈門少年の応援をしていて、私は笑った。
またある日、私がYouTubeで「狩野英孝」のゲーム実況を見ていたところ「え、狩野英孝?」と半信半疑だったもんだから、その面白さを力説した。数週間後、妻は狩野英孝のYouTubeライブ配信を見ながら「英孝ちゃん!そっちじゃない!がんばれ!がんばれ!」と狩野英孝を「英孝ちゃん」と呼ぶようになっていた。
どうやら、妻は「ある一定の条件」を満たせば、どハマりする。
心の底から応援する。
彼らに共通するのは、
何より「仲間たちを思いやる精神」を持っていることである。毎日一緒にいると、妻のハマるものの統計も見えてくる。今でいうと「SPY×FAMILY」よりは「怪獣8号」が好きなタイプなのである。
妻には何か心の支えになるものがあってほしい。我を忘れるほど何かに没頭して、いつもニコニコしていてほしい。
そうさ、私たち夫婦は不妊治療中。先の見えない暗いトンネルを2人で歩いているから、妻の心の不安を少しでも忘れさせてくれるようなものを勧めたかった。
【過去記事】私たち夫婦と不妊治療
人は誰でも熱しやすく冷めやすい。
私も妻も例外ではない。
妻はある時から、最後にハマった狩野英孝、いや英孝ちゃんにも少しだけ飽きてきたようだった。
うーん、何かないか…。
…。
……♪…
…ズン…タッ♪……
…どこからか音楽が聴こえてきた。
…smooth like Butter♪
小粋でキャッチーなリズム、なんだかディスコにいるかのように勝手に体が動き出す音色…。
…A side step,right-left,to my beat…♪
ズンチャカ ブンチャカ ズンズンズン♪
な、なんだこの曲は!自然に体が踊り出す!
BTSだった。
これは!
私は東方神起以来のK-POPマニアを自称していたが、妻には話していなかった。お国柄というものがあるし、妻に受け入れられるか分からないから、彼らの素晴らしさや努力みたいなものを力説することはなかった。
ところがこの頃、BTSの「Butter」がビルボード記録に迫るスマッシュヒット。友情・努力・勝利、圧倒的な人気と実力、そして何より仲間を思いやる精神、そう、妻の好む全ての希望的要素を彼らは持っていた。
こ、これだ!!!
と、いうわけで妻に見せてみた。
BTSのButterのMVを。
ところが妻はそれを見てもハマらなかった。我が家はテレビでYouTubeを見ることが出来るので、テレビにButterのMVを流したが、でも妻の「かかり」は悪かった。
(ふーむ)
というわけで、他のMVも流してみた。
『Boy with luv』『idol』『DNA』、
そして『Dynamite』のBTS入門編4点セットを。
妻はまだ「かから」ない。
(これでもダメかぁ)
私は諦めない。
続けて、ドキュメンタリーを流してみた。
BTSの運営事務所は超がつくほど優秀で、彼らが結成されてから今日に至るまで、ライブコンサートの舞台裏からダンスの練習まで、何もかもをYouTubeなどで無料公開してくれている。視聴者に彼らの全て(努力と栄光)を公開してくれているのである。天才的甘さなのだ。
BTSがある授賞式で大賞を受賞した映像を妻に見せてみた(ARMY界隈では有名だろう)。
BTSメンバーの1人、J-HOPE(通称ホビ)が泣きながらスピーチをしている映像である。彼が嬉しさで泣き、グループ活動の苦悩とARMY(ファン)への感謝を語る。するとホビにつられて他のメンバーもさめざめと泣き出す。そしてメンバー同士で抱き合うのだ!
「こんなに頑張ってるんだ…」と
胸にジーンとくる映像である。すると、
妻がムクッと起き上がって映像を見だした。
(かかった!)
焦らない。
私はさらにダメ押しで、BTSの別のドキュメンタリーを流した。彼らが遠く南米の国(チリだったかな)のスタジアムを満員にしている様子が流れる。
「え、なんかこの人たちすごくない?」
妻が映像を食い入るように見だした。
(きた!)
友情・努力・勝利、一生懸命にひたむきに努力する様子、そして仲間たちを思いやる心、ここまでは揃った! あとひと息でロイヤルストレートフラッシュが! 決まる!
あとは「圧倒的な実力」だ!
そこでさらにたたみかけた。
BTSの「ON」のMVを見せてみた。
ONのMVはとにかくヤバくて、彼らの激しいダンス、黄金的キレ、努力の成果が垣間見える傑作MVである! これを見ればBTSの「圧倒的な実力」が分かるはず。届け!届いてくれ!
「え!!ヤバい!BTSやばい!!!!」
いよしっ!!!!
かかった!かかった!
ここまで約4時間かかった。
翌日、仕事が終わって家に帰ってみると、
テーブルの上にBTSのDVDが置いてあった。
そして妻はYouTubeでBTSの映像を流し、しっとりとみていたかと思えば「BTS!BTS!」と叫んでいるではないか。
(あぁよかった…)
何かにハマっている時の妻が好きだ。
頑張っている人を純粋に応援できる妻が好きだ。
あれから約1年半が経とうとしているが、妻はすっかりBTSのARMYとして、その深すぎる4次元の沼にゆっくり、どっぷりと浸かっている。彼らの活動の全てを把握して「今日はナムジュンが〜、そしたらクオズがね」と報告してくる。それも毎日。その沼は深すぎて、私からはもう妻の姿が見えなくなっている。
「古参のARMYさんには最大限のリスペクトを持ってるから! 私なんて新参者だから!」
そんなことを言いながら、生活の全てがBTSになり、彼らの全てを全身全霊で応援している。
よかった。
本当によかった。
そんな妻を見て、私もニコニコしている。
振り返ると、妻は私をいつも応援してくれた。
きっと、誰かを応援する輪は円環を成して、グルグルと回っているんだ。BTS、彼らの努力の積み重ねが妻を励まし、回り回って私を励ましてくれるから。そして私も妻を励まし、誰かを励ます。そういう輪。
BTSさん、うちの妻を救ってくれて、
本当にいつもありがとうございます。
私も救われています。
本当にありがとうございます。
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