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短編小説

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11人の方程式

11人の方程式

 カーマインは幼い頃から、星を見るのが好きだった。
 色とりどりの星々の瞬きを見ているだけで、何時間でも過ごすことができた。
 空を巡る双子の衛星の追いかけっこは、朝まで眺めることができた。

 やがて成長し、科学の本を読み漁る年齢になると、カーマインは思った。
 いつかあそこへ行ってみたい、と。

 気が付くとカーマインは、それより遥か先へ行く日々を送っていた。

***

 壮年と呼ばれる年齢

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完璧な天気予報を目指して

天気予報に得点制が導入された。予報の精度を上げるため、国民が正誤を投票することにしたのだ。しかし実際には精度は上がらず、代わりに彼らは曖昧な予報ばかりするようになった。ついには「明日は明日の風が吹く」などと言い出したが、この予報すら外れた。翌日は、今日と全く同じ天気だったのだ。

フェネックの黒い爪

フェネックの黒い爪

「なんで様式変えたんだ?」

部長がまた、俺の出した書類を突き返した。

「見づらいだけだろこんなの。いつもの様式で書き直せ」
「はい、すみません」

お前が変えろと指示したんだろ、とは言わなかった。誰もこの人に文句なんて言わないからだ。部署全体に、そういう空気が出来上がっている。俺は部長ではなく、その空気に従っていた。

疲れた足取りで席に戻る。隣の同僚が「大変そうだな」という目で俺を見た。

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時計はどこだ

時計はどこだ

 何気ない日常が壊れるのは、いつだって突然だ。それは良い場合もあるし、悪い場合もある。ぼくの日常は、あのラビー君が転校してきたことで、大きく変わったんだ。

 よく晴れた初夏の朝だった。クラス担任のクジャク先生が、新しいクラスメイトを連れてきた。
「さ、自己紹介をお願い」
 先生にうながされると、彼はぼく達と同い年とは思えない大人びた声で自己紹介した。
「初めまして、帝都から来たウサギのラビーです

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算法の村

算法の村

 江戸から歩いて一日足らずの小山(おやま)村は、豊かで安穏とした村である。北に小さな山があり、そこから下る数本の細い川が、村を幾つかの集落に分けていた。
 豊かになったきっかけを高村は知らなかったが、ちょうどこの春日神社を建て替えた頃からだと、祖父は語っていた。やはり氏神様のおかげなのかと幼い高村が尋ねると、いや境内を広くして、年貢免除地を増やしたからだと祖父は笑った。
 代々神職を務めている高村

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誰がケーキを食べたのか

誰がケーキを食べたのか

 楽しみにしていたのに。

 冷蔵庫の扉を開けた私は、そのまま硬直していた。入れてあったはずの私のケーキが、何者かに食べられ、なくなっていた。

 いったい誰が食べたのか。そんなもの、妹に決まっている。うちの家族で、一度に二個も食べるような食欲があるのは、私を除けば妹しかいない。

 いやいや、いかんいかん。私は頭を振った。

 私はパズルとミステリを愛する文学少女だ。そんな状況証拠だけで妹を犯人

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何かの手順書

何かの手順書

「S博士、お呼びでしょうか」

「おお、待っていたぞ、C君。実は、例の平成の頃に書かれた古文書が、ついに解読できたのだ」

「えっ、本当ですか!」

「この古文書は、ほとんど同じ内容のものが全国でいくつも見つかっている。これの解読は千年前の人達の生活を知るのにきっと役に立つ……と思ったのだが」

「だが?」

「解読できたのに、結局何が書いてあるのか、さっぱりわからんのだ」

「どういうことですか

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