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KIGO
2021年9月2日 21:50
山羊と狼は結婚できると思う?ベッドの上、僕の肩口に顔を埋める相手に小さく尋ねる。暗闇に睫毛の動く気配がする。先刻あまりに間近で見つめるものだから、瞳の中に自分が映る距離とはこんなに近いのだと驚いた。向こう側にも、僕が居たのだろうか。こういう時、漆黒の目を持つ僕らは都合がいいらしい。返事は無い。天井の換気扇が強風を受けて、がたがたと鳴っていた。その日、僕らは初めて一夜を共にした。
2021年5月30日 23:13
この一週間は、四、五年ぶりに、変化の波に巻き込まれている。蔦が這うように縁が繋がって、制御のできない紋様を描いていた。これが吉凶のどちらを意味するのかは分からない。あるいは、意味などないのかもしれない。何十億人のこの世界で、偶然の引力で惹かれあった私たちは、深緑の世界のアダムとイブになり得るのだろうか。万緑(ばんりょく)
2021年5月27日 23:08
「秋」という言葉には、実りのときという意味がある。新緑の中、麦たちは、たわわに実った黄金の穂を揺らす。そう、麦の秋は、夏の季語なのだ。金色の野に風が駆ける。真っ青な空色のシャツを着て。隣の小さな手を握る。麦の秋(むぎのあき)
2021年5月17日 23:55
奈良へは、中学の修学旅行で初めて行った。鹿をじっくりと間近で見たのもこの時が初めてだったように思う。先の丸い鹿の角は、一年かけて伸びたものが春に落ち、生え変わった後なのだと引率の先生が教えてくれた。持っていったインスタントカメラを後日現像すると、ほとんどは見事にピンぼけしており、その中でも鹿を映した写真が沢山残っていた。旅館の慣れない枕と浅い夜、その日、私は夢を見た。運動部に所属していた私は
2021年5月16日 23:51
植物が這っている建物が好きだ。最近は人口緑化を取り入れた施設やビル群も見かけるが、自然な生命活動には、より心惹かれる。東京でも、少し住宅地へ入り込めば、怪しいくらい緑を纏った民家と出逢えたりもする。そして、その写真を撮っている人物がいるとすれば、私はその一人である。細い手足が、器用に凹凸を捕まえている。よくよく観察すれば植物とは、毛が生えていたり、湿度があったり、大変に有機的なのだ。度を越し
2021年5月15日 13:30
風薫る朝。自転車脇のブロック塀には、小さな虹が映っていた。薄いシャカシャカのパーカーを羽織って漕ぎ出す。風を受けて、帆がばたばたと膨らんだ。雑草の生い茂る路地を通り抜けて、さっき飲んだ珈琲交じりの吐く息さえも、ぼくは、風をあつめて蒼空を翔けたいんです。薫風(くんぷう)
2021年5月10日 23:56
白牡丹といふといへども紅ほのか高浜虚子「花の王」とも呼ばれる牡丹。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。美女を形容したと言われているが、漢方とその効能を意味している説もあるそうで面白い。そのスキボタンは、私を癒してくれる?白牡丹(はくぼたん)
2021年5月7日 23:53
「風炉」とは、畳の上に置いて釜をかけ、湯を沸かす茶の湯の道具である。茶室の畳を四角に切って炉をしつらえ、灰を入れて火を焚き、湯を沸かす。幼少期より、定期的に顔を見せに行く親戚夫婦の家があった。二人は母の、そのまた母の血縁か何かで、母の旧姓と同じ苗字をしていた。二人の間は子どもがいなかった。僕らとは、ほぼ祖父母と孫くらい歳が離れていたから、毎度それは大層可愛がられた。二人が住む家には、奥の和室に
2021年5月6日 20:18
立夏、暦の上では夏の到来だ。先日、藤を見た。大きく垂れ下がる立派な藤。かの有名なガウディのサクラダファミリアは、上下にひっくり返したワイヤーで模型を作り、荷重や構造をみていたそうだ。この藤も、もしや逆さに立ち上がるのかも。匂い立つ。頭上の立夏、藤の城。立夏(りっか)******写真を撮ろうと近付けば、大勢の熊蜂にめちゃくちゃ縄張り争いされた。小学校の通学路付近。こち
2021年5月4日 23:33
東京や菖蒲葺いたる家古し正岡子規この菖蒲(しょうぶ)とは、豪華な花をイメージする「花菖蒲」ではなく、細長い剣形の葉が主となる多年草を指し、こちらは区別のために「葉菖蒲」とも呼ばれる。蒲のような黄色い花穂をつけ、菖蒲湯となるのも後者の「菖蒲」の方である。菖蒲葺く。瓦葺き、茅葺きという屋根材を示すのとは別に、「葺く」には軒端に草木などを差しかざすという意味がある。正岡子規が見た東京では、
2021年5月1日 23:42
四月の終わりは、春の果ても意味していた。あんなにも待ち焦がれた春が去っていくのは寂しいと、春を惜しむ季語は数多い。しかし、現代は新年度の始まりも相まって、晴れやかな春のイメージに引っ張られて、なんだか少し、無理をしているのかなと、在りもしないきらきらを出そうとしているのかなと、きっとそういう歪みが集まって、淀んだ澱が重なって、五月に病を付けてしまったのかも知れないとそんなことを
2021年4月30日 23:56
人に愛されたいと願いながら、同時に、人が見出した期待に猜疑を抱いている。そして囲まれた柵の抜け穴を求めて、誰も私を知らない世界へ行きたいと願っている。二月尽から、早二か月。抱える二律背反は今や恐怖を伴って、他者と自己の狭間を彷徨っていた。そんな私は四月人(じん)。迷える牡羊座の生まれである。四月尽(しがつじん)******
2021年4月29日 23:50
夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る。立春から数えて八十八日前後に茶摘みは始まり、以降一か月以上の間隔を空けながら続けられる。摘み始めから半月程度の間に摘んだ柔らかい茶葉が、最高級の一番茶となるそうだ。最近知ったのだが、緑茶、紅茶、烏龍茶は、茶葉の発酵度合が異なるだけで、同じ茶葉から出来ているそうだ。こんなにも味や色が違うのにその実、正体は同じだったのだと驚いたのを覚えている。ど
2021年4月28日 22:12
「今年は、部屋に春が来なかった」春の終わり、暮春(ぼしゅん)。写真は桜が散る頃なので晩春とは言えないのかも知れないが、暮れ往く春に想いを寄せる小噺をひとつ。今の部屋に越してきて、これで六年目の春を迎えた。玄関ドアの目の前は小学校で、境界にちらほら桜が植わり、そのすぐ向こうには教室が並んでいた。通勤の頃になると、朝の合唱が聞こえてきて、いや正確には聞こえ始めるとそろそろ家を出る時刻が迫って