マガジンのカバー画像

うみを知るまで

4
運営しているクリエイター

2020年5月の記事一覧

うみを知るまで(終)

大学進学と共に、家を離れて一人暮らしを始めた。
流れで部活を決めて、すぐにアルバイトを始めた。
慣れない生活と未経験な仕事で疲れても、部活に参加した。
誰もいない部屋での1人は、想像よりも落ち着いたが、それよりも、夜はより深く、暗く感じた。
それからしばらくすると、すこし経済的に苦しくなって、アルバイトを増やした。
息をしているだけでお金がかかる感覚に陥ったときは、決まって明るくなるまで眠れなかっ

もっとみる

うみを知るまで(3)

僕は、将来の夢を書くのが、いつからか苦手になった。
生きていても、自分の思い通りにならないことの方が多いし、予期せぬことが起きる方が多いから。
夢を叶える人間は、ごく僅かで、僕はその中の1人ではないと思ったからだ。
いつも困って、人のためになる仕事、人の役に立ちたいと、書くようになった。
つまらない、渇いた人生が、続くと思っていた。
死ぬために生き、その準備をし続けていると思っていた。

その事実

もっとみる

うみを知るまで

いつからか、夜が怖くなった。
思い当たる理由は、いくつかある。
小学生の時に、ある恩人がいた。
ある日、その人と喋り、また来週と、手を振って別れた。
そして数日後に、亡くなった報せを受けた。
まだ人が死ぬとか、そういうことを全くわかっていなかった。
告別式に出て、亡くなってから初めて対面した。
その時、人生で初めて人の死に顔を見た。
正直に言うと、その頃の僕は怖くなってしまった。
ついこの前まで、

もっとみる

うみを知るまで(2)

朝でも夜でもない時間。

それが僕の時間になって、一番安らぎを得られる瞬間だった。
いつしか、人生に答えを求めるようになってしまった僕は、図書館で伝記ばかり借りて読んだ。
どうしたら、名の残る人間になれるのか、わかると思ったから。
世界の偉人や、天下人は苦悩していたのだろうか。
己がなんなのか、どうあるべきか。
きっと、こんなことを考えてる時点で、僕は、偉人ではないし、非凡な才能を持ち合わせていた

もっとみる