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短編小説。

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#恋愛

Days with You

Days with You

「ねぇ!起きてー!」
遠くで君の声が聞こえているような気がする。
これは夢か、現実か。
「ねぇ!もう12時!お昼だよー!」
えらいリアリティのある夢だな。時間まで言ってくるのか。
「ちょっとー!聞こえてるのー?」
徐々に意識がはっきりしてきた。
限界レベルのかすれ声で返事をする。
「えぇ…もうそんな時間…?」
「そうだよー!いつまで寝てるのー!今日映画見に行くんでしょー?」
「ごめんごめん」
楽し

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ヒロイン。

ヒロイン。

憂鬱な冬の朝。
カーテンの外を見ると、ほんのり道路が白い。
起きるだけでも嫌なこの季節。
布団から出て、眠い目を擦りながら、服を着替える。
今日も何一つ変わらない1日が始まる。

いくら外に出たくなくても、僕には大学をサボらない理由があった。
そう、君に会えるから。

今日みたいに骨まで凍りそうなそんな日に僕は君を見つけた。
「おはよう~!ねぇねぇ!雪すごいきれいじゃない!?」
少し離れた席の方で

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Ending

「今日さぁ、バイトでこんなことあってさ…」
「うんうん」

「今日服買いに行ったんだけどさ…」
「えー!どれどれー?」

「この前友達がさ、めちゃくちゃ面白くて…」
「ははっ、うんうん」

二人でいるといつでも僕は僕の話ばかりで。
今思えば、どれだけ君の話を聞いていただろう。
そんな僕でも、君はいつでも笑顔で話を聞いてくれていた。

***

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あえないきみへ。

あえないきみへ。

今日も仕事を終えて、家に帰る。
ネクタイを緩めて、スーツをハンガーに掛ける。
シャワーからあがって、ふと、スマホを開いて日付を確認する。
「前に会ってからもう1ヶ月半かぁ」
経ってしまった時間の長さに驚く。
僕が学生を卒業して仕事を初めてから、なかなか会えなくなってしまった。
会えないどころか、メールや電話の回数も減り、物理的にも心理的にも距離が出来てしまったような気がする。
「今日はなんだか君の

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日常革命。

日常革命。

朝7時。
いつもの時間にアラームで目が覚める。
すごく寒い。出たくない。
ベットの枕元にあるライトスタンドの電気を消して、空になった加湿器に水を補充する。
「起きなきゃ…」
そう呟いてベットから出ると、洗面台に向かった。
1本だけになってしまったピンクの歯ブラシを見ながら、少しだけ切ない気持ちになる。
そんな気持ちを誤魔化そうと、最近ハマっているバンドの音楽聞きながら、朝の支度をする。
「そんな曲

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ヒカリノマチ

ヒカリノマチ

「さぁ、帰ろうか」
「ん!ちょっと寄り道して帰ろうよ」
コンビニで買い物を終えて、君といつもの帰り道を歩く。
特別近道でもなく、特別舗装されて綺麗でもないこの道でも、君と歩く道ならそれでいいと思えた。
橋から見える川の流れは今日も穏やかで、日差しを反射してキラキラと輝いている。
まるで君といる毎日のようだなんて思って、柄にもないなと笑った。

レジ袋をふらふらさせながら、2人で手を繋いで歩く。

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君がいた世界に。

君がいた世界に。

今日、僕の最愛の人が亡くなった。
信じられなかった。
受け入れられなかった。
涙も枯れ果てて、頭がぼんやりしている。
君の弾けるような笑顔を見つめながら僕は呟いた。
「似合わねぇよ…」
聞いたことないぐらい掠れた声だった。
鼻の奥がツンとする。
どんな服も似合う君だったけれど、遺影に映る姿だけは全くだった。

「もう!なに泣いてんのー?」
これは全て夢で、起きたらまた隣に寝ている君がそう言って笑っ

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きみとぼくの白昼夢。(下)

きみとぼくの白昼夢。(下)

前編はこちらから。

“赤い糸”が切れてしまっても日常は続いていく。

君を失って1年が経とうとしていた。

君がいないことに絶望感を抱いていた僕だが、人間というのは残酷な生き物だ。

もう既に君の知らない僕に少しずつ変わっていっていた。

***

見たい映画ができた。
最近話題の興行収入が億を突破した作品だ。
特に誰のファンとかではないが

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きみとぼくの白昼夢。(上)

きみとぼくの白昼夢。(上)

2人を繋ぐ“赤い糸”が切れる音が聞こえた。

2人の時間が、君が他の誰かと出会う時間になっていった。

2人の日々は色褪せていった。

悪い夢を見ているようだった。
早く覚めてくれ。そう願うばかりだった。
でも夢じゃなかった。

僕は君を失った。

***

いつも通りの時間に目を覚ます。
君のもので溢れかえる部屋を見渡す。
君は

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ヘイコウセカイ。

ヘイコウセカイ。

君は先に寝てしまった。
すごく幸せそうな寝顔だ。
「ねぇ、どんな夢見てるの?」
返ってくるはずのない問いかけを君に投げかけた。
「ごめんね」
聞こえるはずのない謝罪。

「好きな人がさ、できちゃったんだ」

***

いつも通り「またね」と手を振って、君が部屋を出て行ったあと、僕は洗面所に向かった。
並んでいる青と黄色の歯ブラシに目を向ける

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雨上がりに想う君。

雨上がりに想う君。

部屋を出て一人で歩いた。
君との思い出をかき消すように、ただ何も考えず。
外はさっきまで雨が降っていて、雨上がりの独特な匂いが立ちこめている。
「雨上がりの匂いってね、ぺトリコールって言うんだよ!ギリシャ語で“石のエッセンス”って意味なんだって!」
得意げに話す君の姿が浮かんだ。
もうその姿を見ることは叶わない。

***

ケーキ屋の前を

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わたがし。

わたがし。

「ねぇ!」
女の子をデートに誘うなんて人生で初めてだった。経験が少なすぎるせいで、ただ呼ぶだけの声がものすごく大きくなってしまった。
「…なに?」
ほらみたことか。でかい声に反応した君は、すごく怪訝な表情をしている。
「あの…その…」
頑張れ、自分。言うんだ。誘うんだろ、お前の目の前の女の子を。
「僕と…夏祭り一緒に行ってくれない…?」
恐る恐る君の方を見る。
「なんだ、そんなことか。いいよ。特に

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君とカメラと花火。

君とカメラと花火。

終わった。
全てを失った気分だ。
大好きなカメラにも触りたくないくらい、喪失感にかられていた。

シャッターを切る。
そんな一瞬さえも君に使えばよかったと思えるほど大切だった君は、僕のカメラには映らないくらい遠い存在になってしまった。

***

外でなにやら大きな音がする。
「あぁ今日花火だったか」
それまではなにも頭になかったのに、急に切

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逃した魚。

逃した魚。

終わりは唐突にやってきた。
私たちが築き上げてきたはずの2年半は、あなたの一言であっけなく幕を閉じた。

***

「あのさ、別れようか」
言葉が出なかった。頭が真っ白になるとはこのことだろう。
「なんで急に?」
できるだけ重くしないようにと、笑顔を作ったつもりだけど、上手く笑えているだろうか。
「好きな人ができたんだ」
言葉が

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