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ヒカリノマチ

「さぁ、帰ろうか」
「ん!ちょっと寄り道して帰ろうよ」
コンビニで買い物を終えて、君といつもの帰り道を歩く。
特別近道でもなく、特別舗装されて綺麗でもないこの道でも、君と歩く道ならそれでいいと思えた。
橋から見える川の流れは今日も穏やかで、日差しを反射してキラキラと輝いている。
まるで君といる毎日のようだなんて思って、柄にもないなと笑った。

レジ袋をふらふらさせながら、2人で手を繋いで歩く。
「借りてきた映画は夕飯の後見ようね!」
ずっと見たいと言っていた話題の映画を借りることが出来て上機嫌な君が嬉しそうに話している。
「夕飯の後でいいの?」
「え?なんで?」
「だって絶対寝るやんあなた」
「うるさい!いいの!今日は寝ないもん!」
いつも通りバシバシと僕の肩を叩く。力加減という言葉はこの子の中にはないらしく、結構痛い。


                             ***


「あ!そういえばさっきのアイス食べる?」
「いいね、食べながら帰ろうか」
700円分の買い物をしたら引けるコンビニのくじで当たったアイスを開けようと、手元を見ている姿を目に焼きつける。我ながら可愛い彼女を手に入れたものだ。
大きく口を開けた割には小さなひと口で、君がアイスを頬張る。そして顔をしかめる。
「え、どしたの?おいしくない?」
「い、いや。知覚過敏」
「おばあちゃんみたいなこと言わないの!」
誰がおばあちゃんやねん、と即座に突っ込みながらアイスを食べ続ける。
「んー!やっぱり当たったアイスは美味しいよね!」
「いや、買ったのと変わる?」
「変わるよ!ほら、人のお金で食べる焼肉は美味しいって言うじゃん!」
「いやいやいや!それはだって焼肉だからね?かかってるお金が違うよ」
「そんなに文句言うならあげないよー?」
そう言って少しむっとした視線を向ける。


ごめんごめんと言いながら笑い合う。
アイスなんてもらえなくても、君からはもう抱えきれないくらい、色んなものをもらってるよ。
なんて言うと君はたぶん調子に乗るから、絶対言わないけどね。


                             ***


ねぇ、知ってる?
君と出会ってすごく救われているんだ。
君と見る世界は、何倍も輝いて見える。まるで別世界のように。
僕は同じだけ返せているんだろうか。
僕と一緒にいてよかったと、思ってもらえる何かをあげることは出来ているのだろうか。


君と出会う前の僕は何も知らなかった。何も持っていなかった。
何もなくて遠くを探し回っていた。
そんな僕の手を優しく引いてくれた君に、なにか与えられているのなら、僕はいつの間にか探し物を見つけられていたのかもしれない。


君と歩くと少し遠い道もあっという間で、ただいま、おかえりと言い合う。
今日みたいな日が続くことを願って日が暮れていった。



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