Ending

「今日さぁ、バイトでこんなことあってさ…」
「うんうん」

「今日服買いに行ったんだけどさ…」
「えー!どれどれー?」

「この前友達がさ、めちゃくちゃ面白くて…」
「ははっ、うんうん」


二人でいるといつでも僕は僕の話ばかりで。
今思えば、どれだけ君の話を聞いていただろう。
そんな僕でも、君はいつでも笑顔で話を聞いてくれていた。


                            ***


「私たちも、もう終わりだね」
「…そうだね」
夕暮れの光がカーテンの隙間から部屋に差し込む中で、僕たちは終わろうとしていた。
「なにか、言い残したことはある?」
君が泣いてしまうのを必死にこらえた声で僕に語り掛ける。
僕は、何も言えなかった。
あんなに君といる時は喋れていたのに。
「何もないか。ごめんね?なに期待してるんだろう」
君が震える声を誤魔化すように笑う。
違うんだ。そんな目で見ないで。そんな顔で笑わないでくれよ。

終わりの瞬間が近づいて、ふと君との日々を振り返っていた。 
でも、思いつくのは君にしてもらったことばかり。
僕がしてあげられたことは何ひとつ思いつかなかった。

何も君にできなかった自分と、こんな時でも言わなきゃいけないことが出てこない自分が情けなくて、ぎゅっと唇を噛んだ。


                             ***


僕たちはいつでも会いたい時に会えたわけではなかった。
遠距離という程でもないけれど、それなりに二人の間には距離があった。
「ねぇ、次会えるのいつ?」
「ねね、会いたい気持ち」
君はよくそう僕に言っていた。
「なかなか会えなくてごめんね」
そう僕が言うと、君は決まってこう言った。
「寂しいのも会いたいのも、あなたも一緒だから大丈夫」

君はいつも笑顔だった。
よく笑う女の子だった。
でも今思えばその笑顔のうちの何%かは、会いたい気持ちをしまい込んだ、それを隠すための笑顔だったのかもしれない。

ふと君が「悲しいね」と呟いた。
君の顔を見ると、いつも通り君は笑っていた。

2人で一緒に買いに行った、見慣れた服を着て。
見慣れない、胸が痛くなるような笑顔を浮かべて。


君はふと立ち上がってかばんを手に取った。
「もう帰るねっ」
最後まで泣き顔を見せないために、一刻も早く外に出ようとしているようだった。
「…ごめん」
こんな時にも僕は一言しか出てこないのか。
自分への怒りが込み上げる。
「なんで謝ってるのー!」
少し頬を膨らませて見せて、玄関へと向かった。
「ねぇねぇ」
「ん?」
靴を履いて、僕の方を振り返って君が言う。
「ありがとう、大好きだったよ」
ばいばい、と君は鍵を開けて部屋を出ていった。


最後の最後まで、君は君のままだった。


そんな君の代わりなんて僕は要らないということに気がついたのは、君が部屋にいた温もりも消えそうな時だった。


僕たちのエンディングをここまで悲しいものにしてしまった僕を、僕は嫌いだった。
君が去り際に言った「大好きだった」というセリフ。
こんな僕なのに、最後まで「嫌い」と言わなかった君の優しさに触れた。


そんな僕を見つめるように、ひっそりと日は暮れていった。

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